July 29, 2019

急回

この暑さになると思い出す言葉がある。

仕事でインドに行った時のこと。
区の学事課から顔くらいは出しておいた方がいいと勧められたので、要所の大使館や領事館を回っていた。
すると、コルカタの領事館の方が、現地で物事を進めるにあたってのコツを教えてくれたのである。

「インドには『手紙は三日かけて出す』という言葉があるんですよ」

一日目は、ペンと紙を買いに行く。
二日目は、文を書く。
三日目は、ポストに出す。

これが、インド人の大らかな気質を表すものなのか、あるいは諺の類なのかは知らない。

Recorded at
Stern Auditorium / Perlman Stage at Carnegie Hall in New York.

暑けりゃ暑いほど・・・急がば回れ、か。

July 24, 2019

気違

かなり前に住んでいたアパートでのことである。

右隣の部屋の住人に一度も会ったことがなかった。
他の部屋の住人には、たまにすれ違う程度ではあったが、何度か会ったことがあった。
しかし、右隣の住人は、住んでいるらしい気配を感じても顔を合わせるような機会はなかったのである。

その、住んでいるらしい気配は、煙草を吸う時などにベランダ越しから見える洗濯物の様子で窺えた。

アパートの隣人なんて、特に気にする必要もない。
ところが、この右隣の部屋の住人は、洗濯物が異様だったのである。
干してある衣類は普通なのだが、干し方が尋常ではなかった。

例えば、洗濯ハンガーにズボン1本を干すとして、あなたならどうやって干すだろう。

洗濯ハンガーは、洗濯バサミが何十個かぶら下がった、どこにでもある洗濯ハンガーである。
ズボンはズボンとしか言いようがないが、何でもいい、とにかく干すのは一着のみである。
大抵の人は、洗濯ハンガーの真ん中あたりに干して適当にバランスをとると思う。

右隣の部屋の住人は、洗濯ハンガーの一番端にズボン1本を平気で吊るすのだ。

結果、洗濯ハンガーは斜めに傾き、ズボンも斜めに反って、横から見て「く」の字に干された状態となる。
これを最初に見た時、百歩譲って、物凄く適当な性格の住人なのかと思って笑ってしまった。
しかしそうではなく、ちょっとまともではないなと察し、笑えなくなるのに時間はかからなかった。

いつも「く」の字になった洗濯物は風に揺られ、ベランダのコンクリート床に引きずられて円を描いていたのだ。

ズボンやワンピース、コート、ストッキング。
そういう長物の裾が、乾くまでの間、ベランダのコンクリート床の砂埃に何重もの円を描く。
洗濯する意味があるのだろうかと問いたくなるくらい汚れるのだが、乾く頃にはいつの間にか取り込まれている。

そしてまた、濡れた洗濯物が「く」の字に干されるのだ。

Rain - "Bicep" Bicep
Ninja Tune

「本当は恐ろしいグリム童話」も「まんが日本昔ばなし」の怖いお話特集も、結末は同じようなものだ。

先日の放火事件だってそうだ。
幽霊や怪物ではなかった。
一番怖いのは人間なのだ。

右隣の部屋の住人には、終に会わずじまいである。

July 16, 2019

仕掛

むかーし、むかし。

ある山のある村に、あるおじいさんが住んでいました。
ある日のこと、おじいさんは孫たちを呼び集めました。
孫たちは三人兄弟でした。

ワシも歳をとって隠居するでな、お前たちに畑を耕す牛を譲ってやろう。

ストローを念じて動かすよ
@Julius Dein

牛は17頭おるから、長男は2分の1の牛を、二男は3分の1の牛を、三男は9分の1の牛を連れていけ。

長男は、割り切れないぞ、と怒りました。
二男は、割り切れない分は肉にしてでも割るしかないぞ、と怒りました。
三男は、畑を耕す牛で食べる牛じゃないぞ、と怒りました。

孫の三兄弟は喧嘩になってしまい、おじいさんは困ってしまいました。

(ふーっ)
@Julius Dein

するとそこへ、どこからともなく、1頭の牛を連れたお坊さんが現れました。

ほうほう、それはそれは、困りましたな。
どれ、よければ私の牛を1頭さしあげましょう。
おじいさんと孫たちはとても喜び、お坊さんにお礼を言いました。

お坊さんがくれた1頭の牛を加えると、牛は18頭になりました。

これって(息吹きかけてるだけじゃ・・・)?
@Julius Dein

もう一度、おじいさんは18頭になった牛を分け合うよう孫たちに言いました。

長男は2分の1なので、牛9頭
二男は3分の1なので、牛6頭
三男は9分の1なので、牛2頭
             
合計         牛17頭

不思議じゃ・・・牛が17頭しかおらんぞ。

・・・・・!!
@Julius Dein

おじいさんと孫たちは、お坊さんに聞きました。

牛が18頭になったから割り切れたのに、数えてみると17頭しかいませんのじゃ。
お坊さんはにっこり笑うと、まあまあ、割り切れたんだからいいじゃありませんか、と言いました。
そして、お坊さんがひょいと手を振ると、お坊さんが連れてきた1頭の牛は小さな木彫りの牛になってしまいました。

おじいさんと孫たちが驚いていると、お坊さんはいつのまにか、どこかへいなくなってしまいましたとさ。

なんでもない・・・
@Julius Dein

おしまい。

まあ確かに、分数ってのはややこしいわな。