2016年5月6日、ホワイトハウスの定例記者会見にて。
<President Obama>
I think ... I just want to emphasize the degree to which, we are in serious times and this is a really serious job.
This is not entertainment ... This is not a reality show.
This is a contest for the presidency of the United States.
And what that means is that every candidate, every nominee, needs to be subject to exacting standards and genuine scrutiny.
<オバマ大統領>
私が考えるに・・・ここで特に強調しておきますが、我々(米国)は深刻な状況にあり、(大統領職は)真剣に取り組むべき職務です。
エンターテインメントではないし・・・リアリティー・ショーではないんです。
(大統領選挙は)合衆国の大統領職について審議する場です。
ですから、すべての候補者とすべての有権者は、厳格な規律によって正しい判断をしなければなりません。
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President Barack Obama addressed the presidential campaign of Donald J. Trump. May 6, 2016 The White House |
もし自分が若かったら、民主党候補のバーニー・サンダースさんを支持すると思う。
現在、大統領候補の3位か2位、泡沫候補と思われていたが今年に入って大躍進した。
キング牧師の行進に参加し、「I have a dream」を生で聞き、逮捕される写真が残ってる候補者なんてそういない。
社会主義者と公言しながらここまで支持されたのは、やはり、現在のアメリカの苦悩を切実に訴えているからだ。
特に、「経済」に関わる人たちは、なぜ彼がここまで若年層に支持されたのかを真剣に考えた方がいい。
「正義」や「道徳」といった単語を多用する彼の演説の姿は、例えるなら皆から信頼されている学校の先生の姿だ。
あくまでも常識的に考えてどうなのか、というキーワードは今後の選挙情勢にも大きく影響するだろう。
数年前なら「青臭い理想主義」と笑い飛ばされていた訴えが、今、誰も笑えないほどアメリカは深刻なのだと思う。
ちなみに、今回の大統領選でも各陣営が工夫を凝らした様々なキャンペーン動画を沢山公開している。
サンダースさんの動画は、彼を支持する理由を「あなたが語る」という演出で統一している。
これがちょっとしたドラマの様で(実際にドラマチックな人生を歩む方達だが)、思わずもらい泣きしそうになる。
感情ではなく政策で、とは思うが、やはりそれだけ「正義」や「道徳」が失われていると感じる人が多いのだろう。
今回の様々なキャンペーン動画の中では、最もよく考えて作られているな、と感じた。
当初の大本命、民主党候補のヒラリー・クリントンさんは日を追うごとに急激に失速している。
昨年、ラスベガスの討論会で同党対立候補たちが例のメール問題で公私混同だと彼女を責めようとした。
ところが只一人、サンダースさんが「いい加減にしてくれ、彼女のメール問題なんて今は誰も聞きたくない」と一喝。
するとクリントンさんは「私もよ」と苦笑いで賛同、これは「言葉のボクシング」では考えられない大失態だった。
なぜ「あなたに諭される筋合いはない、私の問題は私が説明します」くらいの返しが出来なかったのか。
この出来事は、クリントンさんとサンダースさんの差が一気に縮まった印象的な瞬間として記憶されてしまった。
それでも現時点で彼女が大統領候補の筆頭だとは思うが、民主党の指名候補確定は来月だから油断できない。
あれだけ優秀で、あれだけ実績があり、あれだけ人脈のある女性なのに、それらが全部裏目に出てしまっている。
超有名人であったが為に、何を語ってもエスタブリッシュメント(既存支配層)の理屈になってしまうのだ。
クリントンさんのキャンペーン動画は、彼女を支持する理由を「みんなで語る」という演出を多用している。
これも逆効果で、本来は主役のはずの有権者が、強烈な主演女優のせいで全員脇役に追いやられている感じだ。
彼女が最後に語る「チャンピオン」のくだりは、本来の文意であれば「擁護者」と読めるはずだった。
しかしこうなると、キャリア・ヒエラルキーの頂点を目指す貪欲な「勝利者」と読み取られても仕方がないように思う。
指名候補として確定した、共和党のドナルド・トランプさん。
この人、内容の是非は兎も角も、単純で短い文言をテンポ良く語り、ディベートはかなり上手いことが解った。
反論しようにも、単純で短い文言に対してだから、反論側も子供っぽい口喧嘩みたいになって深く突っ込めない。
諦めずに反論しようとすると、結局は単純で短い文言をテンポ良く繰り出されて簡単に軌道修正されてしまう。
トランプさんがスーパーカーなら、他の共和党候補者は鈍く非力な軽自動車で、そのくらいの話術の差を感じた。
更に手強さを印象付けるのは、流石に生粋のワンマン社長だ、彼の「怒鳴り慣れ」は芸の域に達している。
こうなると「言ったか言わないか」「イエスかノーか」だけが重要になり、議論を尽くすような面倒は排除される。
しかも、怒鳴った直後に必ず、怒鳴られた人まで思わずクスッとなるようなジョークを入れる余裕があるのだ。
今年に入って一応、彼の支持者も反対者も過激になったあたりから用心を始めたが、基本は変化なし。
さて、トランプさんのキャンペーン動画は、彼を支持する理由を「俺自身が語る」という演出で、ある意味潔い。
そして、経済や教育、移民、軍事といったそれぞれの政策を簡潔明瞭な文言で必ず1分以内にまとめている。
皮肉なことに、内容の是非は兎も角も、今回の候補者の中では「何をしたいのか」が一番良く解る仕上がりだ。
相手に伝わるというのは重要なことであり、同時に、理解度という難問とは永遠に相容れないのである。
※7 「もっと大きく、もっと強く、我が国に誰も手出しできない(Nobody is gonna mess with us)軍隊を作ろうぜ」、と仰っておられますです。
※8 イバンカさん(娘さん)も登場、2分近く(も)あるが、テレフォンショッピングみたいなキャンペーン動画なので解りやすい。
※9 抗議者に襲われかけて、支持者は暴徒化、壇上で「俺のシークレットサービスはいい仕事をしやがるぜ」と言い放って大ウケ。
先月27日、オバマさんの広島での演説や行動は、とても立派だったと思う。
一番感動したのは、「私たちは沈黙の嘆きに耳を傾けます」(We listen to a silent cry.)と言ってくれたことだった。
多数決で選ぶことが最も民主的であると考える国、アメリカの大統領がこれを語るには大変な勇気が必要だったと思う。
次の大統領も、沈黙の嘆きに耳を傾けようとする人が就くことを願いたい。
ありがとう、オバマさん。