March 27, 2012

格差

現場ミーティングに出て、数週間程度のスケジュールを受け取る。

いろいろな資料と共に、オーダーシートも渡される。
個人顧客の平均総額は1000万から1300万。
一件あたりの総額が数千万になることもある。
支払方法はほとんどがカード一括。

なんか、ここ数年、格差を感じる職業ばかり選んでいる。

 That means he's single again! - "Austin Powers : The Spy Who Shagged Me" Jay Roach


一応、顧客の生活レベルに合わせ、基本的および最低限のスーツは支給される。
それほど羨ましいとは思わないが、世の中の仕組みはどうなっているんだろうとは思う。
節電にもバーゲンセールにも無関心な世界。

ある日、自前で用意する昼飯を忘れて現場に入ったことがあった。
最近はいつも家で作ったサンドイッチやオニギリを持参している。
それを忘れてしまった。

朝から食べてないし、長丁場なので、とにかく何かを腹に入れなければならない。
コンビニは遠いし、現場から長時間離れることもできない。
アシスタントと一緒に、現場の店子に入っているパン屋に行くことにした。

並んでいるパンは、それはそれは旨そうだ。
しかし、1000円札一枚を、いやいや、一枚も出しておきながら、菓子パンが二個しか買えない。
ここはランチでお一人様50,000円からというパン屋なので、仕方がない。

世の中は仕方がないものなんだ。

 It's Godzilla! - "Austin Powers : Goldmember" Jay Roach

社会主義はとっくの昔に崩壊している。
人はそんなに平等であることを欲していない。
かといって、資本主義のような競争社会も苦手。

一体、どうすればいいのかな。

実は昨年、興味を持ったニュースのひとつにウィリアム王子の結婚式があった。
資本主義の源流はイギリスにある。
その主宗国の王子様は、ウォール街でデモが練り歩くような世の中をどう思っているのだろう。

姫様は大変お綺麗な方でございましたね。

先日、外国人のお客様が腕時計を紛失してしまったということで、探すのを一緒に手伝った。
聞かされた腕時計のメーカー名は、聞いたこともないメーカー名だった。
ソファをどけるために持ち上げると、支給されたスーツの裾からカシオの腕時計が覗いた。

ちなみに、女王陛下のジェームズ・ボンドは、誰でも知ってるオメガを愛用している。

 Rolex? ...OMEGA - "Casino Royale" Martin Campbell

March 22, 2012

相性


 このカット、どう思います?

隣に座っている若いスタッフが聞いてきた。
モニターに2枚の写真が横並びで表示されている。
パッと見たかぎり、同じようなシチュエーションのカットで大差はないように思う。

 これでギャラは同じなんですから、いい気なもんですよね。

そこまで言うなら、一体、どこがどう違うのか。
クライアントは気にしないと思うけどね、などと適当に聞き流していて、ふと尋ねた。
撮ったのは誰なの?

 こっちは何々さん、こっちは何々さんです。

ああ、写真が気に入らないんじゃなくて、撮影した奴が気に入らないってことか。
とは言えない。
困ったな。

 Mind Shift - Genki Sudo with WORLD ORDER


社員が10人いようが1000人いようが、会社の規模は関係ない。
2人以上の人間が集まれば「組織」として考えて行動した方が良い。
大した職歴はないし、なかなか自らは実行できないが、それが経験則としてある。

相性がいい相手との仕事は、いい結果が出せる。
当人たちは面白く感じるし、やりがいや意義なども見い出しやすい。
しかし、組織として考えると、そこに落とし穴がある。

先ず、継続性や柔軟性がない。
相手が変わったから駄目なんだ、という悪循環の因果律に陥る。
仕事の中身は変わっていないのに。

次に、普遍性や拡張性がない。
ツーカーでなければ伝わらない、というのは簡単に言えば仲良しクラブの考え方である。
第三者にとっては、閉鎖的で秘密主義な集団にしか見えない。

これらが引き起こす最大の問題は、客観的な判断ができなくなることだ。
あの人が好き、この人は嫌い、というのは同じことである。
どちらも冷静ではない。

じゃあどうすればいいのか、というのはいろんな人がいろんなことを言っている。
本もたくさん出ているし、大抵のビジネス講座は必ずこの対策を謳う。
それこそ、これで万事解決だという組織論を出せたら、ノーベル経済学賞だろう。

ただ、冷静になるということは、何人にとっても困難だということだけがはっきりしている。

 World Order - Genki Sudo with WORLD ORDER


平均年齢が20代という若くて小さな職場だ。
子供っぽい部分と大人っぽい部分が混在するのは仕方がない。
だんだんと相性も解かってきた。

ツーマンセルの撮影チームを考える。
メインは簡単に決まる。
はっきり言って誰でもよく、メインという立場がその人間をメインらしく振る舞わせる。

問題はセカンドで、ここで相性が頭をよぎる。
相性のいいセカンドにかぎって、サブのような立場になってしまうことが多い。
サブは文字通り、補助でしかない。

本来、セカンドは第二の独立した役割を負う。
メインを立てつつも、自らの判断力が必要になる。
相性が良いと、メインに依存するようになり、判断力を失って盲信に近い状態になる。
もう少し自分で考えて撮ってくれ、となる。
相性が悪いと、セレクトしたカットが思い切り被ったりするようになる。
もう少しお互いに譲り合って撮ってくれ、となる。

どっちもどっち、どこの会社も同じです。

 2012 - Genki Sudo with WORLD ORDER in Maya

March 15, 2012

勝手

またポップアップ・ウィンドウが開いた。

邪魔なので、すぐに閉じる。
ウィルスではない、まっとうにインストールしたソフトのひとつだ。
なんか、いろいろと知らなくてもいいこと、知りたくもないことを、わざわざ知らせてくれる。
サボって YouTube なんかを見ている時はまだいいさ。
せっぱつまった仕事をしている時でも、勝手に、丁寧に、最優先で知らせてくれるのはどうなんだ。

先日、時間に余裕があったので、あるポップアップ・ウィンドウが開いたのを機会に少しだけ見た。
唯一の選択肢があって、下記の3つから選んでくれ、とある。

 「今すぐ更新する」
 「後で更新する」
 「定期的に更新する」

なぜ「更新するつもりはない」という選択肢がないんだ?
せめて「このポップアップ・ウィンドウが開かないようにする」でもいい。
好感度という言葉を知らないのか。

ハードディスクからそのソフトを削除することにした。
検索結果は、そのようなソフトは「ありません」とのこと。
そんな馬鹿な話があるか、現に今、そのソフトのポップアップ・ウィンドウが開いてるんだぞ。

よくよく調べてみたら、そのソフトの商品名とプログラムの名前は違う、ということが解かった。
例えば、デスクトップに表示される商品名が Iranai Soft だとする。
これが、ハードディスクのプログラム上では IS という名前で書き込まれているのだ。

ハードディスクの検索は一文字だって違えば引っかからない。
なんだ、そういうことか。
当然じゃないか。

あっはっは。

なんだか物凄く馬鹿にされた気がする。
宣伝という経済活動は何人にも邪魔させないという、奢った資本主義の裏返しじゃないか。
便利とか進化とかいう耳触りのいい言葉で誤魔化されるのも御免だ。

踊るんじゃなくて、踊らされてるってのは、気分のいいもんじゃない。

 What'll It Take - Graham Coxon, Mv : Ninian Doff

March 10, 2012

財布

なんど騙されようとも、なんど痛い目を見ようとも、
それでも人間を信じなければ何も出来ないではないか。

               ロバート・A・ハインライン 「夏への扉」

雨だ。
寒いね。
あの話、か。
ごめん、よく覚えてないんだ。
だって覚えてる話の方が少ないよ。
そんなもんじゃないのかな。
昨日、財布に穴が空いてるのに気が付いたんだ。
入れる小銭もないけどね。
大きな穴なんだ。

うん。

 Josie - The Darcys, Vo : Jason Couse, Mv : Aaron Miller

March 8, 2012

被告

入室を促され、ドアを開けた。

結構広い、100平米くらいあるだろうか。
法廷に入ると、最初に傍聴席があった。
次に、低い木製の柵があり、娑婆のこちら側とお白州の向こう側を仕切っている。

 「原告の何々さん、被告の何々さんですね、それぞれの席へどうぞ」

柵の扉を開いて、向こう側に入る。
まず証言台があり、対面する位置に裁判官や書記官などが6人ほど座っている。
傍聴人を観客とするなら、原告は下手、被告は上手に座る。

 「事件番号、平成二十四年 第何々号、開廷します」

なんというか。
可笑しいというか。
正直、こんなに本格的な裁判だとは予想していなかった。

 「被告 何々、あなたは本人に間違いありませんね?」

間違いありません。
そう答えながら、開廷すると「何々さん」ではなく「何々」と呼ばれるんだな、と思った。
ちなみに、刑事は被告人、民事は単に被告、と呼ばれる。

最近、目の焦点が合いにくい。

 Riverside - Agnes Obel, Mv : Alex Brüel Flagstad

March 1, 2012

下車

ここで降りたら、終わるんだろうな。

電車は各駅停車で東京駅に向かっている。
事務所には寄らず、直行で打ち合わせの相手に会う。
ここで降りたら、終わるんだろうな。

誘惑は甘い。
信じられないくらい、無茶苦茶に甘い。
この甘さは逃避行動の原因のひとつでしかないが、いつしか目的そのものに置き換わる。
置き換わると、もう手の施しようがない。
何故なら、誘惑そのものが目的になり、結果はどうでもいいと考えるようになるから。
幸福を掴もうと逃走を続けたボニー・アンド・クライドのカップルは好例だろう。

煙草や薬の中毒者は、酩酊感や恍惚感を求めている訳ではない。
煙草や薬を理由に、逃避行動を求めている。
肺癌になろうが、廃人になろうが、どうでもいい。
やってる時じゃなく、手にした瞬間が一番気持ちいいからだ。

それでも悲しいかな、悲惨な結末を避けたいという我儘な欲望もある。
だから尚更、自分の中で置き換わりつつある原因と目的の関係を無視しようとする。
実は、無視そのものも逃避行動だ。
恐らく最も辛い無視の症状は、心を閉ざす状態だろう。

一駅、一駅、東京駅に近づく。
一駅、一駅、電車が停まる。
その度にドアに向かって足が出る。
吊皮を握りしめる手が汗ばむ。
ここで降りたら、終わるんだろうな。

降りる、降りない。
選択は無数にある。
それなのに、結果はひとつしかない。

地下に潜って、また一駅。
電車が停まる。
逃げたい。
吐きそうだ。
嘔吐感を抑えようと上半身を伸ばしたら、窓ガラスに反射した自分が見えた。
この顔が人前で調子のいい営業スマイルを振りまく。
素晴らしく気持ち悪いじゃないか。

電車が動き出し、「次は東京駅」というアナウンスが聞こえた。

 Luv Deluxe - Cinnamon Chasers, Mv : Saman Keshavarz