November 27, 2014

絵空

先日、ちょっと宇宙に行ってきた。

そう書いてしまいたいくらいだ。
アルフォンソ・キュアロン監督の原案・脚本による映画「ゼロ・グラビティ」(原題:Gravity)を観ての感想である。
幸村誠の漫画「プラネテス」でも題材になったケスラー・シンドロームの話に似ているが、そんなのはどうでもいい。

久々に、映像の凄さに感動した。

宇宙に関することが好きな人、例えば、立花隆のドキュメント「宇宙からの帰還」などが好きな人は必見だ。
宇宙関連の書籍やNASA関連の映像資料など、まるで自分が現場で見ているかのような映像が繰り広げられる。
今迄、撮影監督のエマニュエル・ルベツキは何度もノミネートされてきたが、本作でアカデミー撮影賞を受賞した。

過去に宇宙飛行士たちから「聞かされていた話」を、これだけ具体的な映像にできたのだから当然だろう。

個人的には、音響監督のグレン・フリーマントルと作曲家のスティーヴン・プライスも高く評価したい。
真空の宇宙に音はなく、空気で満たされた宇宙船や宇宙服の中では音が伝わるが、そのバランスが見事なのだ。
こういった音響下では、確かに、シンプルでストイックなくらいのサウンドトラックの方が効果的だろう。

それに、プライスはまだ若いがクリフ・マルティネスのような切れがあって、音楽だけ聴いていても飽きない。

主演はストーン博士役のサンドラ・ブロック、助演はコワルスキー飛行士役のジョージ・クルーニー。
どちらも大好きな役者だが、正直、サンドラ姐さんとジョージ兄貴である必然性には疑問符が付かなくもない。
ストーン博士のお涙頂戴な過去や、コワルスキー飛行士の煩い雑談なんて、感情移入の余計な導入でしかない。

だが、そんな「人間臭い」ことは瑣末なことだと思えるくらい、映像が凄いのだ。

こんな単純な脚本に、約118億円もの制作費を投資してくれる会社があるなんて。
そして実際に映像化してしまう人達がいるなんて。
ハリウッドは、やっぱり未だに凄い。

こういうのを見せられると、心底、羨ましい。

&
Alfonso Cuaró directs Sandra Bullock and George Clooney.
"Gravity" Alfonso Cuarón
Warner Bros.

少し別の価値観から評価するので蛇足になるが、最近では次の二作品も羨ましく感じた。

先ず、ジョセフ・コシンスキー監督の脚本による映画「オブリビオン」(原題:Oblivion)。
いろいろなエクステリアやインテリア、それらの操作系GUIに至るまで、とにかくよくデザインされている。
テクノロジーが洗練されるとこうなるんだろうな、という世界観が見るだけで解る。

もちろん、トム君の押しの強さを考慮したとしても、だ。

"Oblivion" Joseph Kosinski
Universal Pictures

次に、ニール・ブロムカンプ監督の脚本による映画「エリジウム」(原題:Elysium)。

この映画には、スタンフォード・トーラス(ドーナツ)型のスペース・コロニーが登場する。
このコロニーの内部、理想郷として建てられた居住区画のデザインがよくできているのだ。
実際にこういう構造物で撮影したら、背景はこんな風に写るだろうな、という空気感のようなものまで伝わってくる。

これだけ洗練された舞台が、あんな泥臭い主題で汚されてしまうのが勿体ない、と思えるくらいだ。

"Elysium" Neill Blomkamp
TriStar Pictures

自分は男なので、女のことはよく解らないし、別に媚びるつもりもない。

それでも、例えば「オブリビオン」のようなセンスでデザインされたスマホやPCがあったら。
そして、例えば「エリジウム」のスペース・コロニーのようなセンスでデザインされた街や家があったら。
きっと、彼女や妻に「新しく買い換えよう」とか「将来はこんな処に住もうよ」とか口説けるレベルなのだ。

これらのレベルは、暴論かもしれないが、国産のSF映画にとってはまだまだ程遠い世界であるように感じた。