その同僚は本当に表情がない。
どうして小売業で働く気になったんだろう、というくらい、表情がない。
目線も合わせてくれないから、尚更、表情がないように見える。
周りも、そういう人だと思って諦めている。
ある日、やっぱり表情はなかった。
だけど、仕草はかなり焦っていて、せわしなく倉庫の中を動き回っていた。
迷いに迷って、どうしよう、いや、どうしたんですか、と声をかけた。
エクセルのデータでは在庫が「有」るのに、倉庫の現物は在庫が「無」い、ということらしい。
らしい、と書いたのは、その同僚の声が小さいから。
こちらが「え?何?」といった聞き返しでもすれば、聞き取りにくい声は更に小さくなる。
なんとか聞き取った在庫の商品は、確か昨日か一昨日、帰り際に何処かで見たぞ。
一緒に探すと、誰かが作業した際に勝手に移動したのか、別の場所にその探し物は「有」った。
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ありがとうございます、と小声だけど言ってくれた。
同僚にとっては精一杯だったろう。
やっぱり目線は合わせようとしないけど、表情も安堵しているように見えた。
裏表のない言葉、社交辞令ではない言葉、お愛想ではない言葉だったから、それでもう充分だった。
なんかね、こっちも嬉しかったです。