October 26, 2015

生贄

ケシャ(Ke$ha)の曲に「ダイ・ヤング」(Die Young)ってのがある。

そのまんま、早世の意味。
リリースは三年くらい前だったかな、ノリのいい曲だし、これはまたヒットするんだろうなあと思ってた。
珍しかったのは、これだけ売れてるアイドル、もとい歌手の新曲なのに、公式なミュージック・ビデオがなかった。

最初に公開されたのはリリック・ビデオのみ。

夜の渋谷に、歌ってるケシャを適当にインポーズ。
これに歌詞(リリック)を乗っけてシンプルなエフェクトをかけただけ。
なんだけど、それが逆にKARAOKEにはピッタリで、リリック・ビデオとしては異例のヒットになった。

♪ Let's make the most of the night, like we're gonna die young!

♪ 最高の夜にしなきゃね、誰だって早死にしちゃうかもしれないんだから!みたいな。
2ndアルバム「ウォーリア」からの先行シングルで、メディアもイチ押しで、話題沸騰で、みたいな。
ビルボードのチャートもウナギ登り、みたいな。

何故か、追加された「ちゃんとしたミュージック・ビデオ」はクソみたいな出来、みたいな。

"KE$HA"
Photography : Solve Sundsbo
Interview Magazine 2010

そして、ウォーリア・インタロゲーション版の数日後、サンディフック小学校銃乱射事件が起きた。

" Your Fault! "

「お前のせいだ!」という、どこかの誰かのツイートから始まった。
メディアは一斉に「原因ではないにしても不適切」として自粛を決定した。
曲は強制的にランクダウン、なかったことになった。

" I'm so so so sorry for anyone who has been affected by this tragedy.
  and I understand why my song is now inappropriate.
  ... Words cannot express."

「私はこの悲劇に襲われた人たちに、本当に本当に本当に謝りたい。
そして、私の曲が今は不適切であることも承知しています。
・・・言葉では言い表せません。」

本当に狂っているのは、誰なんだ。

October 4, 2015

愕然

20分後の未来。

新たな法律によって、テレビを消すことは違法となり、テレビはつけっぱなしにしておくことが義務付けられた。
全ての物事が視聴率によって決まる世界で、誰もが視聴者の一員として日増しにテレビへの依存度を高めていく。
チャンネル切替防止技術の登場は更に人々を釘付けにするが、その視聴には重大な問題点があった・・・。

これが、1984年に誕生し、1987年にドラマ化された「マックス・ヘッドルーム」の舞台設定である。

Paranoimia - "In Visible Silence" The Art of Noise
China Records / 
Chrysalis Records

先日、小六の甥が「SFって戦争物って意味じゃないの?」と言うのだ。

これには愕然とした。
でも確かに、人気が高い「SF」の内容は争う物語ばっかりだ。
あのなぁ、SFってのはそもそも何の言葉の略かっていうとなぁ、そこまで言いかけて飲み込むしかなかった。

男は戦争、女は恋愛、このふたつをとっぱらうと、ショービジネスが成り立たない世界なんだもの。

"The Surrogates Vol 2: Flesh and Bone" Robert Venditti & Brett Weldele
Top Shelf Productions

アシモフの「ロボット工学三原則」は一般的にも有名だと思う。

だけど、彼自身がこの原則の矛盾点に気付き、それが物語の根幹だったことはあまり知られていないのかな。
キイスの「アルジャーノンに花束を」なら、単語の数なんかじゃなくてさ、賢くなることは幸せなことなのか、とかね。
ハインラインの「夏への扉」なら、運命と選択の間で揺れる倫理観とかさ、いろいろあるんですよ。

一体、いつからSFは勧善懲悪で殺し殺されスッキリ爽やか、みたいなジャンルになったんだろう。

Stanley Kubrick and William Sylvester as Dr. Heywood R. Floyd, on the set of a space station.
"2001: A Space Odyssey" Stanley Kubrick
Metro-Goldwyn-Mayer Studios, Inc.

一度だけでいいから。

NHKの大河ドラマでSFをやってみませんか。
過去の偉人を出し尽くして、それでもドラマの山場が「戦」と「愛」しか提示できないって、悲しすぎる。
今、これだけ「未来」を考えるに値する時代って、そうそうないと思うんだけど。

いち視聴者として、切実にそう願います。