April 24, 2014

絵柄

シャガールの作品にどんな印象を持つか。

自分は基本的に、他の人と同じ印象しか持っていない。
なんとなく柔らかな、ぼんやりと曖昧な、優しい絵柄、という印象だ。
誰かにシャガールを紹介しなさいと言われたら、やはり柔らかく優しい作品です、と説明すると思う。

そう聞かされた方も、やはり柔らかく優しい作品だな、と思ってくれると思う。

"Abraham and three Angels"  Marc Chagall
Saint-paul-de-vence, France 1966
National Museum or Chagall Biblical Message

絵は好きなので、たまに努めてちゃんと見ようとする時がある。

するとシャガールは、実は柔らかくなく、曖昧でなく、最も力強く描く画家の一人なんじゃないかと思う時がある。
狂ったようなデッサン、おかしなパース、はみ出た絵の具など、それは夢を描いてるからなのだろうか。
いや、例えばピカソのキュビズムなどと見比べるとはっきりする。

ピカソのキュビズムは、イズム(主義)と称するくらいだから、方法論のひとつなのだ。
天才に反論するつもりはないが、お前にこれが解るか、という問答をされているような気になる。
方法論というのは必ず流行り廃りを生み、必ず対立する方法論を生む。

主義主張が多いのは政治の世界だけではない。

"Abraham and three Angels"(detail)  Marc Chagall
Saint-paul-de-vence, France 1966
National Museum or Chagall Biblical Message

シャガールの作品は独特だと評されることはあっても、主義主張で括られることはない。

彼の作品を細部までよく見ると、感覚だけの筆遣いではないことも解る。
この描線しかない、この色合いしかない、これに命を賭している、というくらい筆遣いがしっかりしているのだ。
そういう誰にも真似のできない、純粋すぎる独創性というのは、主義主張より恐ろしいものなのかもしれない。

翼を休める三人の天使はアブラハムに言ったそうだ、「ソドムとゴモラを滅ぼしにゆくのです」と。

April 10, 2014

改憶

遅ればせながら、観た。

2012年公開のレン・ワイズマン監督による映画「トータル・リコール」(原題:Total Recall)。

原作はフィリップ・K・ディックの短編SF小説「追憶売ります」(原題:We Can Remember It for You Wholesale)。
ディックは1960年代から1970年代に多くの傑作を発表しているが、評価されるようになったのは死後。
いわゆる、脳とコンピュータが繋がって現実と仮想が曖昧になる、といったサイバーパンク分野の先駆者だ。

同世代のウィリアム・ギブスンと共に「早すぎた概念」であり、後の映画化等でやっと一般に知られるようになった。

特に1990年代以降、この二人の作品は今時のSF映画の元ネタとして散々クレジットされてきた。
終いには、彼らが原作なら映画も成功するはずだという勘違いにまで至り、結果、成功例は非常に少ない。
原作の話になると長くなるので、自重する。

それでは、映画版の主な登場人物を紹介しよう。

ダグラス・クエイド (原作ではダグラス・クェール)
 近未来の貧しい労働者だが、優しく美しい妻との慎ましやかな暮らしに満足もしている主人公。
 同じ「悪夢」を繰り返し見るようになったある日、「記憶体験」を売りにするリコール社を訪ねる。
 前回はアーノルド・シュワルツェネッガー、今回はコリン・ファレルが演じた。

ローリー
 ダグラスの良き妻、というのは仮の姿で、彼を監視し、彼の記憶が蘇った場合の「口封じ」を命じられている。
 前回はシャロン・ストーン、今回はケイト・ベッキンセイルが演じた。

メリーナ
 ダグラスの逃亡をサポートし、彼の本来の記憶、つまり、彼の本来の姿を知っているらしい女。
 前回はレイチェル・ティコテイン、今回はジェシカ・ビールが演じた。

コーヘイゲン
 ダグラスを監視するようローリーに命じた上官で、彼の記憶が蘇ることを最も恐れている人物。
 前回は火星の植民地を取り仕切るボス、今回は連邦政府の元首、という設定で描かれている。
 前回はロニー・コックス、今回はブライアン・クランストンが演じた。

約2時間後。

前回も前回だが、今回も今回だ。
原作の「自分を認識するには自分の記憶に頼るしかなく、それが曖昧になったら」という命題は何処へいった。
モニターにリモコンを投げつけたくなる衝動を抑え、自分の記憶に残った箇所を2点だけ述べよう。

まず、メリーナ役のジェシカ・ビールが男前でびっくり。

映画「チャックとラリー」で披露してくれた、素晴らしく可愛い芸術的なお尻しか記憶に残ってなかったから。
それが、地下組織のメンバーらしく地味な服を着て、髪をひっつめ、銃を手にすれば、あら不思議。
こんなに男前な顔立ちの女優さんだったんだ、と驚いた。

これはこの映画の唯一の救いで、今後のキャスティングでは参考にして欲しい。

&
"Total Recall" Len Wiseman
Jessica Biel as Melina, a member of the Colony resistance
Columbia Pictures 2012

つぎに、ローリー役のケイト・ベッキンセイルなんだけど、彼女の髪が気になって気になって。

記憶が戻りつつある夫と大乱闘、立体エレベータを爆破、ホバーカーで大追跡、銃撃戦の数々、等々。
極秘任務を遂行する彼女はパンチもキックも鋭くて、どのくらい鋭いかというと、空気が唸るくらい鋭い。
でも、バッと顔を振ると髪型が整う、バッと身を起こすと髪型が整う、近未来はそういう化粧品でもあるんだろうか。

オスカーは細かく分類すると100部門以上あるから、「どんなアクションでも乱れないヘアスタイル賞」は確実だ。

"Total Recall" Len Wiseman
Kate Beckinsale as Lori, a UFB undercover agent
Columbia Pictures 2012

フィリップ・K・ディックは、自ら「SF小説を書く哲学者」と名乗る時があった。

どうでもいい記憶しか残らなかった自分が悪いのだろうか。
どうでもいい記憶しか残せなかった映画が悪いのだろうか。
なんだか記憶が曖昧だ。

ただし、自分も映画も、ディックに謝った方がいいことだけは事実だろう。

April 1, 2014

増税

みなさん、増税前の買い溜めは如何でしたか。

三月後半は本当に忙しかった。
発注しても発注しても品薄気味で、一部の商品ではご迷惑をお掛けしました。
この店は増税後も内税式だからそんなに変わらないはずなんだけど、店内アナウンスも散々煽ってたから。

なんていうか、集団心理って怖いですね。

"The Master" Paul Thomas Anderson

0時を過ぎて、パタッと、ホントにパタッと客足が止みました。

店内を巡回して売れ残りをチェック。
週末に雨が降ったのはちょっと痛かったな。
それがなければピッタリ完売だったかもしれない商品がいくつか。

四月の落ち込み、もう考えるだけで怖いですね。

Tous les mêmes - "Racine carrée" Stromae

日が日なんだけど、いろいろ怖くて、気のきいた嘘が思いつきません。