2012年公開のレン・ワイズマン監督による映画「トータル・リコール」(原題:Total Recall)。
原作はフィリップ・K・ディックの短編SF小説「追憶売ります」(原題:We Can Remember It for You Wholesale)。
ディックは1960年代から1970年代に多くの傑作を発表しているが、評価されるようになったのは死後。
いわゆる、脳とコンピュータが繋がって現実と仮想が曖昧になる、といったサイバーパンク分野の先駆者だ。
同世代のウィリアム・ギブスンと共に「早すぎた概念」であり、後の映画化等でやっと一般に知られるようになった。
特に1990年代以降、この二人の作品は今時のSF映画の元ネタとして散々クレジットされてきた。
終いには、彼らが原作なら映画も成功するはずだという勘違いにまで至り、結果、成功例は非常に少ない。
原作の話になると長くなるので、自重する。
それでは、映画版の主な登場人物を紹介しよう。
ダグラス・クエイド (原作ではダグラス・クェール)
近未来の貧しい労働者だが、優しく美しい妻との慎ましやかな暮らしに満足もしている主人公。
同じ「悪夢」を繰り返し見るようになったある日、「記憶体験」を売りにするリコール社を訪ねる。
前回はアーノルド・シュワルツェネッガー、今回はコリン・ファレルが演じた。
ローリー
ダグラスの良き妻、というのは仮の姿で、彼を監視し、彼の記憶が蘇った場合の「口封じ」を命じられている。
前回はシャロン・ストーン、今回はケイト・ベッキンセイルが演じた。
メリーナ
ダグラスの逃亡をサポートし、彼の本来の記憶、つまり、彼の本来の姿を知っているらしい女。
前回はレイチェル・ティコテイン、今回はジェシカ・ビールが演じた。
コーヘイゲン
ダグラスを監視するようローリーに命じた上官で、彼の記憶が蘇ることを最も恐れている人物。
前回は火星の植民地を取り仕切るボス、今回は連邦政府の元首、という設定で描かれている。
前回はロニー・コックス、今回はブライアン・クランストンが演じた。
約2時間後。
前回も前回だが、今回も今回だ。
原作の「自分を認識するには自分の記憶に頼るしかなく、それが曖昧になったら」という命題は何処へいった。
モニターにリモコンを投げつけたくなる衝動を抑え、自分の記憶に残った箇所を2点だけ述べよう。
まず、メリーナ役のジェシカ・ビールが男前でびっくり。
映画「チャックとラリー」で披露してくれた、素晴らしく可愛い芸術的なお尻しか記憶に残ってなかったから。
それが、地下組織のメンバーらしく地味な服を着て、髪をひっつめ、銃を手にすれば、あら不思議。
こんなに男前な顔立ちの女優さんだったんだ、と驚いた。
これはこの映画の唯一の救いで、今後のキャスティングでは参考にして欲しい。
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"Total Recall" Len Wiseman Jessica Biel as Melina, a member of the Colony resistance Columbia Pictures 2012 |
つぎに、ローリー役のケイト・ベッキンセイルなんだけど、彼女の髪が気になって気になって。
記憶が戻りつつある夫と大乱闘、立体エレベータを爆破、ホバーカーで大追跡、銃撃戦の数々、等々。
極秘任務を遂行する彼女はパンチもキックも鋭くて、どのくらい鋭いかというと、空気が唸るくらい鋭い。
でも、バッと顔を振ると髪型が整う、バッと身を起こすと髪型が整う、近未来はそういう化粧品でもあるんだろうか。
オスカーは細かく分類すると100部門以上あるから、「どんなアクションでも乱れないヘアスタイル賞」は確実だ。
"Total Recall" Len Wiseman Kate Beckinsale as Lori, a UFB undercover agent Columbia Pictures 2012 |
フィリップ・K・ディックは、自ら「SF小説を書く哲学者」と名乗る時があった。
どうでもいい記憶しか残らなかった自分が悪いのだろうか。
どうでもいい記憶しか残せなかった映画が悪いのだろうか。
なんだか記憶が曖昧だ。
ただし、自分も映画も、ディックに謝った方がいいことだけは事実だろう。