March 29, 2015

無情

クリストファー・ノーラン監督は定石を外しながら観客を納得させる、という力技を披露し続けてきた。

そんな監督が初めてSFに挑んだ作品「インターステラー(Interstellar)」は楽しみにしていた映画のひとつだった。
実物の各種プロップに充分な予算を充て(つまり実際に細部まで作り)、CGは背景や合成程度に留めたという。
しかも、科学考証を担当したメンバーの概要が大々的に宣伝されていたので、期待は更に増した。

なんと、あのジョン・ホイーラー博士の直弟子、キップ・ソーン博士が全面協力したという。

ホイーラー博士はアインシュタイン博士の共同研究者であり、「ブラックホール」の命名者でもある。
ソーン博士は特異点問題でホーキング博士に勝ち、「ブラックホールの中を見ることができる」可能性を示唆した。
これで期待するなという方が無理だ。

約169分後の感想は、「残念」の一言に尽きる。

まさか、定石とは。
愛情が嫌いな訳ではないが、申し訳ない、ここでの愛情は邪魔でしかない。
愛だ情だを語りたいのなら地面の上でやってくれ。

そう、この作品を恋人同士で観賞するなら、頑張らなければならない。

例えば、彼氏はKANの「愛は勝つ」を熱唱し、そして、彼女は「やっぱり愛よね」と感涙したとしよう。
しかしそれでは、残念だが、君たちはシャアの名言「重力に魂を縛られた人々」になってしまうだろう。
それが嫌なら、科学考証に基づいた映像や脚本について予め勉強するしかない。

人生は、違った、宇宙は「愛じゃ勝てない」から問題なのだ。

"Interstellar" Christopher Nolan
Paramount Pictures & Warner Bros. US 2014

無情そのものである物理現象を前に、それでも人間(人類)はどう行動するべきなのか。

科学はここ100年ほどで指数関数的に進歩した。
しかし、いろいろなことが解れば解るほど、宇宙は我々を拒絶するような場所であることも解ってきた。
ツィオルコフスキー博士は「地球は揺り籠である」と言ったが、もしかしたら、このまま棺桶になるかもしれない。

本格的と謳うなら、SFの魅力はそこに挑んでこそだと思う。