会場では、ピカソやマティス、ジャコメッティやミロなど、絵画の表側と、裏側も鑑賞できるように展示されている。
画家のサインやメモ、画商の正札や但し書き、所有者の刻印など、普段目にすることのできない絵の履歴書である。
そこから、その絵画の描かれた時代背景や美術史における価値の移り変わりなどを展望しようという趣旨だ。
例えば、ナチスの刻印「GR2C」は、表向きは退廃芸術の烙印だが、実際は秘密裏に転売を指示する暗号でもあった。
Make Me Feel - "Dirty Computer" Janelle Monáe Wondaland / Bad Boy Records / Atlantic Records |
なんでもかんでもスマホ、になり始めた頃からだと思う。
例えば、家族が亡くなって、大切な写真やデータが全てスマホに入っていたとする。
それを遺族が取り出したいと望んでも、ハードやソフトのメーカーが頑なに拒む、というニュースを見るようになった。
個人情報は絶対不可侵であり、現時点では裁判所もそう判断している、俺だってその通りだと思う。
ただ、後世の未来人がスマホ普及以降の芸術家を調査研究しようとした時、いろいろ困るだろうなあとも思う。
Mumbo Jumbo - Tierra Whack 2017 Tierra Whack |
今年9月、ついに、ギュスダーヴ・クールベの絵画「世界の起源」のモデルが判明した。
この絵は発表、いや、発見された当時から、論争になった。
絶対にモデルがいる説、そもそもいない説、もしいるなら誰だ説まで、クールベ本人は沈黙を墓場まで持っていった。
モデルと思しき候補は何人かいたが、最有力だったのは愛人のジョアンナ説である。
しかし、ジョアンナ説の最大の弱点は、彼女が赤毛であったことだ。
ところが、まったく別の研究から偶然、意外にもアレクサンドル・デュマの書簡からモデルが特定された。
パリ・オペラ座のバレリーナにしてオスマン帝国外交官の愛人、そして、「世界の起源」のモデル。
彼女の名は、コンスタンス・ケニオー(クニョー)。
ナダールが撮影したポートレートによって、彼女はその姿を何枚か遺している。
Constance Quéniaux Nadar, 1860 |
彼女もクールベも、現在の我々を許してくれると思いたい。