ここ数日。
帰宅時に駅の駐輪場で黒猫を見かける。
野良猫らしく毛艶は冴えないが、黄色い瞳は澄んでいる。
この黒猫の性別は解からない。
仮に、彼としておく。
餌を欲しがるような様子はない。
冷たいアスファルトの上で身を縮めながら、ただ行き交う人々を眺めている。
タバコを消して、彼に近寄ってみようとしたが、やめた。
なんというか、彼の周りに結界がある。
視覚や嗅覚などを越えた、勘の強さみたいなものだ。
生きることや死ぬこと、嬉しいことや悲しいこと、優しさや厳しさ。
感情よりももっと深い意識下で、彼はこれらを認識している。
デカルトの命題なんて不成立になってしまえ。
冬空に下弦の月が沈む。
Gnossienne No.1 - Erik Satie, Piano : Alessio Nanni