キスが上手く撮れない。
日本人でキスが上手い、しかも絵になる、という人はそういないだろう。
キスをしようとする意識が手伝うのか、男女双方がタコのような唇になる。
上手く撮る方法はないかと調べてみた。
外人のキスは恰好いいと言うが、冷静に見るとそれほど絵になってる訳ではない。
案外、堂々と唇を尖らせて、それこそタコのようだ。
ただし、外人は唇が横に広がるような動きに見える。
言葉では何とも表しにくいが、口元全体が前へ出て唇を重ねる感じだ。
キスが日常ではない文化圏の人は、唇が縦に盛り上がり、唇だけが前へ出ようとする。
磁石が入っているかのごとく、唇だけがニュッと伸びる。
且つ、誓いとしてキスしなければならないが、人前でキスなんかできるか、という葛藤が加わる。
どんな美男美女でも、これでは冗談のような絵になってしまう。
想いが絵として写るのは、奇跡に近い。
Kiss - "Merry Christmas, Mr. Lawrence" Nagisa Oshima
若いスタッフが横浜のCP+に行ってきた。
事務所のテーブルに大量のカタログが積み上げられる。
他の若いスタッフも集まって来た。
実は先日、仕事帰りに近くのカメラ屋に立ち寄った。
カメラ屋に行くなんて数年ぶりなので、それなりに楽しみに期待していた。
でも、ショックなだけだった。
驚くくらい、興味が湧かない。
ズラリと並ぶ製品が、全く目に入らない。
どうぞ触ってくださいというデモ機に、触る気分にすらならない。
これでは駄目だ、わざわざ店に来た意味がない。
せめてカタログだけでもと思い、近くのショーケースから数冊を手にする。
晩飯を食べてもいないのに吐き気がしてきて、気が付いた時には駅へ向かって歩いていた。
店には正味5分もいなかったと思う。
9番線と10番線の間にあるホームの喫煙所。
タバコを探そうとして手元が狂い、カタログが落ちた。
のろのろと拾い上げ、そのままゴミ箱に捨てた。
これどうですか、絶対に欲しいですよね、と聞かれて我に返った。
若いスタッフがあれこれスペックを読みあげて、目を輝かせている。
新製品を手に入れたら、彼は世の中を変えることだって出来るだろう。
そういうのは、もうよく解からないんだ、ごめんね。
Satisfaction - Benny Benassi, Mv : Dougal Wilson
深夜、郵便局へ行く。
こんな時間なのに愛想のいい局員。
速達にしてもらった。
裁判所へ提出する答弁書の文面を思い出しながらエンジンを掛ける。
ああ書けばよかったとか、こう書くべきだったとか、今更に迷う。
右折するか、左折するか、T字路を前にして迷う。
少し走ろう。
湾岸線から首都高速に入り、環状線をグルグルと回る。
ただ回るだけ。
でも、ホッとする。
ハンドルを握っている時だけは、何も考えなくていい。
走っていれば、誰にも邪魔されない。
はずだ。
Getaway - "Drive" Nicolas Winding Refn