November 25, 2013

暗澹

この辺りには、街灯がないエリアがある。

真っ暗な夜道、という言葉のままになる。
何も見えないのだが、慣れや勘、足に伝わる地面の感触などを頼りに歩く。
時折、本当に時折だが、通り過ぎる車のヘッドライトが周りを照らす。

驚いて、立ち止まった。

雑木林を横切るガードレールの角に、男が座っているのだ。
ポケットに両手をつっこみ、パーカーを被った頭を深く垂れて、座っている。
冗談だろ、ヘッドライトで見えたけど、靴はどうした、なんで裸足なんだ。

お互いの距離から考えて、こちらが立ち止まって「しまった」気配は伝わったはずだ。

車が走り去ると、再びお互いが闇に沈んだ。
真っ黒な地面と僅かに星明かりのある夜空を重ねるようにして目を凝らす。
今、こうやって冷静に考えると不気味すぎるにも程があって、やはり男が裸足で座っている。

どうせなら、すっと消えてくれたりした方がまだ納得できた。

Burning Desire - "Paradise" Lana Del Rey

田舎には、人がいないようでいる、という怖さがある。

November 23, 2013

些細

ごく普通の仕事に就いていて、ひとつだけ悲しく感じることがある。

タクシーの運転手や派遣で行った保険業務の時などもそうだった。
書類を書いたり備品を選んだり、ちょっとしたメモや注意書きなんかを作って貼るような時。
美的感覚というものが全く、微塵も、これっぽっちも、求められない。

驚くのは、内部だけではなく外部に対して、つまりお客様の目に入るような物事でも大して変わらないということだ。

別に、手作りの注意書きにデザイナーのようなクオリティを求めている訳ではない。
最低限、伝えたい内容を整理して、項目の優先順位などを決め、それらを解り易く簡潔に表示する。
美的感覚以前の、それくらいの配慮があってもいいのではないか、という疑問を持つこと自体が疑問に思われる。

そんな配慮に1分使うなら、1円でも利益を上げることに使ってくれ、と言われる。

実際、民間の中小企業の経費削減は半端じゃない。
美的感覚などという凡そ曖昧な価値は、真っ先に不必要ということになる。
こちらも割り切っているし、ビール瓶の空き箱に座ってるような身分なので、ずっと黙っていた。

ところが、ある日、ある案内書きを見て、とうとう黙っていられなくなった。

"Intouchables" Olivier Nakache & Éric Toledano

片仮名で、グロサリー。

店によってはグロッサリとかグローサリーなどと書くこともある。
不思議なんだけれど、精肉や青果などは日本語なのに、雑貨部門だけはグロサリーと呼ぶ店が多い。
スーパーマーケット、という小売形態が輸入された古い時代からの名残りらしい。

この「グロサリー」を案内書きで使っても、理解できるお客様はほとんどいないと思う。

自分が知ってるから他人も知ってるはずという感覚は、接客業における最悪の欠礼じゃないですか。
ということは、そもそも接客業に向いてない人材がいて、それが判断できない店だと思われるんじゃないですか。
無論そこまで言わず、解りにくいんじゃないですかね、と控え目に進言したつもりだ。

翌日、グロサリーは大きなバッテンで消され、その脇に雑貨、と太いマジックで書かれていた。

"Fruit Stall" Frans Snyders, Vlaanderen 16th Century (1618-1621)
Hermitage Museum

言わなければよかったと後悔して、本当に悲しくなったよ。

November 21, 2013

場所

年末年始はサービス業の書き入れ時だ。

シフト担当のマネージャーは頭が痛い。
忘年会は12月の初めにさっさと済ませてしまうのだそうだ。
しかしこれだけの社員数がいて、一体どこでどうやるのだろう。

どうやら、ファミレスを借りるらしい。

"Doubt" John Patrick Shanley

あるファミレスの一角を借りる。

全部署のシフトで24時間を8分割して組んでいるから、一同に会するのは絶対無理。
そこで、各々が退勤後にファミレスに顔を出し、好きなものを飲み食いする、ということになった。
一人一枚でチケットを配り、食いっぱぐれがないようにという心温まる配慮で出欠も管理される。

あのう、それって忘年会なんですかね。

"Drive : Original Motion Picture Soundtrack" Cliff Martinez

経営者ってのは、忘年会をやらないと駄目とかいう経済界の不文律でもあるのか。

ファミレスまで、行きは誰かの車に乗せてもらえばいいか。
帰りは、徒歩なら90分くらい、電車でも駅までの行き来や待ち時間などを入れるとやっぱり90分くらいになる。
帰りも車に乗っけてくれる話しは嬉しいけど、つまり誰も飲まない、いや飲めないってことか。

なんだろう、それでも忘年会なんですよね?

"Highlander" Russell Mulcahy

神父さん! 許してくれ、俺は虫ケラなのさ。

November 20, 2013

番茶

既に経営危機らしい、ということだった。

それはそうだろう。
あんな場所によく建てたものだ、と思うもの。
箱物行政も極まれり、だ。

タバコを吸いに外へ出ると、冬に備えた野焼きの匂いがした。

計画立案の当初、いろいろな目論見があったのは理解できる。
だけど、こうやって一服しながらだだっ広い景色を見渡すと、悪いが、やっぱり単にだだっ広いだけ。
ここだって名前は商工会議所だが、要は農家の空いてる納屋だ。

町議会は、かっぽう着のおばちゃんが出してくれた番茶をずずと飲んだら、終わっていた。

One Day - Type with one finger

軒先に干してあるピーナッツは、このままフライパンで炒れば食べれるそうだ。