September 22, 2014

今朝

本当に好きだから、書けない、書かないことって、ある。

今朝、帰ってきて、洗濯をした。
いつも通りAMラジオを聴きながら、国営放送を流しながら、洗濯機のスイッチを入れた。
最初、わざわざ耳を傾けるような番組ではないし、洗濯機の音の方が大きかった。

すると、どこかで聴いたメロディが耳に入ってきた。

洗濯機の騒音が邪魔だ。
まさかこんな、すっきりさわやかな、秋晴れの午前中に、あの曲が流れるなんてことがあるのかな。
ボリュームをしっかり上げて聴くと、間違いない、あの映画の、あの曲だ。

どうせまた、曲の途中で関東地方の皆様は交通情報なんだろうと思っていたら、最後まで流しきったじゃないか。

珍しい、どういうことだ、ゴトゴト揺れる洗濯機に両手を付いて耳を傾けた。
どうやら、日替わりの電話ゲストが選んだ曲を流したらしい。
電話の向こうで、評論家らしいゲストが解説を始めた。

はっきり覚えてないので正確な書き起こしではないが、こんな感じだった。

  女性アナ 「こんな曲、流れてましたっけ?」

  評論家 「どこで流れてたかちょっと解りにくいんですけども、主人公が店に立ち寄ったシーンで」

  女性アナ 「ああ、うどん屋の?」

  俺 「そりゃ冒頭のシーンだろが!」

ドン!と洗濯機の蓋を叩く。
だから嫌なんだ、民放テレビの「映画の中の面白ニッポン特集」的な部分しか覚えてないような奴は。
主人公が、職務とはいえ、レプリカント(人造人間)とはいえだ、丸腰の女を射殺しなければならないシーンだぞ。

物語中盤の山場を締めくくる重要なシーンで、主人公の心情を皮肉るように流れてた曲だろ。

それが、うどん屋だあ?
どこをどう観とんじゃお前は、と憤っていたら、それは流石に評論家も即効で訂正してた。
そう、そうだよ、主人公は自分の仕事に心が折れそうになって、飲み屋に寄るんだよ。

  評論家 「立ち飲み屋でやさぐれながら一杯やってる時に流れてた曲です」

  俺 「一杯やってねえよ!」

再びドン!と洗濯機の蓋を叩く。
百歩譲って、あそこが立ち飲み屋だとしようや評論家さん、やさぐれてたとしようや評論家さん。
主人公は一杯も飲んでないし、青島(チンタオ)を買って帰ろうとしてただけ、だろうが。

売り子のおばちゃんがいた飲み屋の奥、上司のブライアンに肩を叩かれた時に流れてた曲だろ。

  女性アナ 「へー」

  俺 「へー、じゃねえよ!」

三度ドン!と洗濯機の蓋を叩く。

  洗濯機 「ピーピーピー」 (洗濯終了音)

  俺 「うっさい!」

洗濯機の蓋を思い切り開ける。
そうだよ、このブログのサブタイトルにも台詞をもらってるくらいだし、好きすぎて、苦しくなるくらいだよ。
物凄く不機嫌になりながら、ベランダへ出る。

秋晴れの下で、洗濯物を干した。

Title: Blade Runner
題名: ブレードランナー

Director: Ridley Scott
監督: リドリー・スコット

Based on: "Do Androids Dream of Electric Sheep?" by Philip K. Dick in 1968
原作: フィリップ・K・ディック、1968年作 「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」 

Soundtrack: Vangelis
音楽: ヴァンゲリス

Release: 1982
公開: 1982年

" I didn't know why a Replicant would collect photos.
 Maybe they were like Rachael ... they needed memories ..."

" レプリカントが写真に執着する理由はよく解らない。
おそらく、レイチェルもそうだ ... 彼らは想い出を欲している ..."


Tattoo of a snake
from "Blade Runner"
Warner Bros.


  Deckard: Excuse me, Miss Salomé (Zhora), can I talk to you for a minute?
                  I'm from the American Federation of Variety Artists.

  デッカード: すみません、ミス・サロメ(ゾーラ)、ちょっとお話しいいですか?
                    私は芸能全米組合から来た者です。

  Zhora: Oh, yeah?

  ゾーラ: あら、そうなの?

  Deckard: I'm not here to make you join.
                  No, Ma'am.
                  That's not my department.
                  Actually, uh ... I'm from the, uh, Confidential Committee on Moral Abuses.

  デッカード: あんたじゃなかったら私は来てませんよ。
                    いや、お嬢さん。
                    それは私の管轄じゃないんですけどもね。
                    実際、ええと ... 私は、その、道徳虐待監査委員会から来てまして。

  Zhora: Committee of Moral Abuses?

  ゾーラ: 道徳虐待監査?

  Deckard: Yes, Ma'am.
                  There's been some reports that the management has been taking liberties with the artists
                  in this place.
  デッカード: ええ、お嬢さん。
                    ここの経営者が出演者たちとよろしくやってるという報告がいくつかありまして。

  Zhora: I don't know nothing about it.

  ゾーラ: 私はなんにも知らないわよ。

  Deckard: Have you felt yourself to be exploited in any way?

  デッカード: あなたは自分が強制されたように感じたことはありませんか?

  Zhora: How do you mean, exploited?

  ゾーラ: どういう意味よ、強制?

  Deckard: Well, like to get this job ...
                  I mean, did you do, or, or were you asked to do anything lewd or unsavory or otherwise,
                  uh, repulsive to your person ... huh?

  デッカード: まあ、仕事を得るためというか ...
                   意味は、あなたがその、なにか猥褻な、不愉快なその他の、
                   うーん、あなたが断りにくいような ... どうです?

  Zhora: ... Ha, Are you for real?

  ゾーラ: ... はは、あんた本物?

  Deckard: O, Oh, yeah.
                  I'd like to check your dressing room if I may.

  デッカード: も、もちろん。
                   なんでしたら、あなたの楽屋をチェックしますよ。

  Zhora: For what?

  ゾーラ: なんのために?

  Deckard: For, uh ... for holes.

  デッカード: それは、えー ... 穴でして。

  Zhora: Holes?

  ゾーラ: 穴?

  Deckard: You'd be surprised, what a guy'd go through to get a glimpse of a beautiful body.

  デッカード: 驚かれるでしょうけれど、悪い奴が美しい体を覗き見しようとするんです。

  Zhora: No, I wouldn't.

  ゾーラ: 駄目、結構よ。

  Deckard: Little, uh, dirty holes they uh, drill in the wall so they can watch a lady undress ...
                  ... Is this a real snake?

  デッカード: 小さな、ええと、奴らは汚い穴からですね、その、女性の着替えを見ようとしてドリルで壁に ...
                   ... これ本物の蛇ですか?

  Zhora: Ofcourse, it's not real.
              Do you think I'd be working in a place like this if I could afford a real snake?
              ... So if somebody does try to exploit me, who do I go to about it?

  ゾーラ: もちろん、本物じゃないわ。
              本物の蛇を買う余裕があれば、こんな店で働くわけないでしょ?
              ... もし強制されるようなことがあったら、誰を頼ればいいってこと?

  Deckard: Me.

  デッカード: 私を。

  Zhora: You're a dedicated man.
              Dry me.

  ゾーラ: あんたは真面目だってことね。
              拭いてちょうだい。


Retiring Zhora
from "Blade Runner"
Warner Bros.

  Deckard: ... Deckard, B-263-54.

  デッカード: ... デッカード、B-263-54だ。


そして、デッカードは野次馬を避けるようにして飲み屋に寄る。

落ち着け、彼女は人間じゃない、レプリカントなんだ、人間じゃない、そう、違うんだ。
仕事だぞ、なんで動揺してるんだ、落ち着け、これは仕事だ。
なにか、なにか酒を、青島(チンタオ)でいい、ああ、頼む。

雨の降りしきる街中の雑踏に混じって、店の奥から漏れ聴こえるようにして流れていた曲。


One More Kiss, Dear
from "Blade Runner Soundtrack"
Warner Bros.


不機嫌になったのは、女性アナや評論家の言動じゃない。

あんな些細なことで、どうでもいいことで不機嫌になる自分自身に、心底、嫌気が差す。
落ち着け、あれはラジオだったんだ、目の前で本物の人間に言われた訳じゃない、ラジオなんだぞ。
一体、俺は何をしてるんだ、煙草は、煙草は何処だ。

本当に好きだから、書けない、書かない。


Los Angeles. November, 2019
from "Blade Runner"
Warner Bros.

"Got the wrong guy, pal." by Rick Deckard
Harrison Ford as Rick Deckard
from "Blade Runner"
Warner Bros.

Sean Young as Rachael
from "Blade Runner"
Warner Bros.

Rutger Hauer as Roy Batty
from "Blade Runner"
Warner Bros.

Brion James as Leon Kowalski
from "Blade Runner"
Warner Bros.

Daryl Hannah as Pris Stratton
from "Blade Runner"
Warner Bros.
Joanna Cassidy as Zhora Salome
from "Blade Runner"
Warner Bros.

Joe Turkel as Dr. Eldon Tyrell
from "Blade Runner"
Warner Bros.

【Attention : Explicit Content】
Tyrell's owl
from "Blade Runner"
Warner Bros.

" All those moments will be lost in time ... like tears ... in rain."

"そういう想い出もやがて消える ... 雨の中の ... 涙のように "