May 15, 2017

黒海

「世界は互いに閉じたままで、いまだに出会うことがない」

これは、昨年に国内で、先日にレンタルで公開されたグルジア映画のポスターに書かれていたキャッチコピーである。
久々に素晴らしい日本語のキャッチコピーだと思っていたので、TSUTAYAで予約して鑑賞させていただいた。
ザザ・ウルシャゼ監督の映画「みかんの丘」とギオルギ・オバシュビリ監督の映画「とうもろこしの島」である。

先ず、ザザ・ウルシャゼ監督の映画「みかんの丘」。

2013年公開の原題は「Mandariinid」、英題は「Tangerines」、現地のグルジア(カルトリ)語で「მანდარინები」。
90年代初頭から続くアブハジア紛争が激化していく中、エストニア人のイヴォとマルゴスはみかん栽培を営んでいた。
彼らは偶然にも、戦闘で負傷したグルジア兵のニカと、同じく負傷したチェチェン兵のアハメドを一緒に助ける。

敵対するグルジアとチェチェンであったが、老人のイヴォは二人の負傷兵にある約束を誓わせるのだった・・・・。

&
"Mandariinid (Tangerines)"  Zaza Urushadze
Allfilm / Cinema 24 / Samuel Goldwyn Films

次に、ギオルギ・オバシュビリ監督の映画「とうもろこしの島」。

2014年公開の原題は「Simindis kundzuli」、英題は「Corn Island」、現地のグルジア語で「სიმინდის კუნძული」。
チェコ、フランス、ドイツ、カザフスタン、ハンガリーの五ヵ国が協力という、難産の末の作品。
独立を宣言するアブハジアと武力阻止で迫るグルジア、その間に流れる自然豊かなエングリ川が舞台。

ある日、ある老人が小さな中州で、孫娘と一緒にとうもろこしを育て始めるが・・・。

&
"Simindis kundzuli (Corn Island)" George Ovashvili
Alamdary Film / 42film / Arizona Prods / Axman Prod / Kazakhfilm

これら二つの映画を知ったのは偶然だった。

2014年2月にソチで冬季オリンピックが開催されていたので、「Techno 5: Russia 1-2」という記事を書いた。
時間も集中力もなく、かといってロシアという括りだけでは大雑把すぎるので、東欧との境界を整理していた。
あの辺りはウクライナにメディアの窓口があるので、お隣りのモルドバのダン・バランあたりから順にと考えたのだ。

そうして3月、ロシアがウクライナ領のクリミアに侵攻した。

もちろん詳しい経路は知らないが、一部で遮断があり、YouTubeで閲覧できなくなったチャンネルもあった。
暫く後、折を見て再閲覧したりしているうちに、これら二つの作品が世界配給されることを知ったのだ。
ロシアは「みかんの丘」でも「とうもろこしの島」でも、物語の転機や背景として重要な存在となっている。

幸いにも、両作品が世界各国で著名な映画賞を受賞したことは、陰ながら拍手を送りたいと思う。

一方、この二つの優れた映画が、国内では二本立てで公開しないと劇場での採算は難しいという現状も知った。
自分も、映画は好きだが映画館に行くことは、子供映画の付き添いでもない限り、もう、ほとんどない。
しかし、パソコンやスマホのモニターではなく、やはり最初に映画館のスクリーンで考えるのが映画監督なのだろう。

それをDVDで鑑賞してしまったことは、寂しく、申し訳ないとさえ思う。

Sukhishvili Georgian National Ballet

前々回の記事「Blog」で、イギリスのバンドKLFの曲「America: What Time Is Love?」を貼った。

このミュージックビデオを最初に見た当時、「左から右へ」ではなく「右から左へ」なんだな、と違和感を感じた。
湾岸戦争があったから編曲されたカバー曲だが、政治思想の左右ではなく、単純に船の進行方向のことである。
あの船は、イギリスからアメリカへ向かっているのだから、つまり「右から左へ」が当然のことなのだ。

被写体の移動やカメラで追うパンニングの方向は、「左から右へ」が原則とされている。

しかし「America: What Time Is Love?」ではカメラワークの原則が負けているのだ。
現地の地理(地図)感覚が優遇され、イギリス人にとって普通の感覚となるように撮影されているのである。
細かいことだが、その逆もあり得る、それは普通の感覚がカメラワークによって黙殺されることだ。

黒海周辺の人々は、西の国と言われると東です、東の国と言われると西です、そういう複雑な心情を持つと聞いている。

Black Sea map
Wikimedia Commons

人々が暮らしている以上、ニュースは戦争の報せだけではないはずだ。

スキシフィリ・グルジア国立バレエ団の撮影ロケーションは、見たこともない場所と素晴らしい建築物だ。
グルジア北西部のクヴェモ・スヴァネティ州ラチャのナンみたいなパンが美味しそう、ぜひ食べてみたい。
この辺りに住む普通の人々は、どんな映画を見て、どんな音楽を聴いて、どんな日常を送っているのだろう。

そう、「世界は互いに閉じたままで、いまだに出会うことがない」のだ。