ある日、Win7を開発したSEのケビン・フリンは、そのデータを同僚SEのエド・デリンジャーに盗まれてしまう。
デリンジャーはWin7を自分で開発したOSとして発表し、その成功によりマイクロソフトの社長にまで出世する。
フリンはこの不正を告発しようとしたが、デリンジャーの策略によって退職に追い込まれてしまった。
数年後、Win8を管理するSEのアラン・ブラッドリは、マイクロソフトに不正アクセスを繰り返す不審人物を発見する。
その不審人物とは、退職後に伝説と化したSE、行方不明とされていたフリンであった。
ブラッドリは同僚SEで恋人のローラ・ベインズと共にフリンを探し出し、OS開発の真相を知る。
更にフリンは、デリンジャーがWin9を葬り、一気にWin10へ強制移行させようとする本当の目的を警告した。
この動きを察知したデリンジャーは先手を打ち、Win10に彼らの抹消を命じる。
しかし、ブラッドリは自らのIDを利用し、既にマイクロソフトの心臓部へ侵入することに成功していた。
ところが、極秘データにアクセスする寸前、Win10によってフリンがコンピュータの内部に取り込まれてしまう。
そこは、ひとつひとつのプログラム、あらゆるソフトやアプリが人間のような人格を持つデジタルの世界だった。
今やWin10は、デリンジャーの思惑さえ超え、コンピュータの内部から人間の世界を支配しようとしていたのだ・・・。
Sark※ : Well, I ... It's just ... I don't know, a User, I mean ... Users wrote us.
A User even wrote you!
サーク : ええ、私は・・・それはつまり・・・解りません、ユーザーは、思うに・・・
ユーザーが我々を作ったんです。
あなただってユーザーによって作られたんだ!
※デリンジャー社長、サーク司令官、MCPの声はすべてデビッド・ワーナーが演じている。
MCP※ : No one User wrote me, I'm worth millions of their man-years.
MCP : 私はユーザーに作られたのではない、私は奴ら数百万人分に相当する。
※マスター・コントロール・プログラムの略で、現在でいうところのOS。
"TRON" Steven Lisberger Walt Disney Pictures |
ディズニーが創造した最も意義ある映像表現のひとつは、1982年に公開した映画「トロン」だと思う。
当時、細野晴臣さんがラジオか雑誌でこんな感想を述べていたことを覚えている。
最先端技術(CG)を「ポップコーン片手に楽しめる娯楽作品に仕上げたセンス」に脱帽、というような感想である。
因みに、当時のアカデミー賞は「卑怯な手段のCGだけで中身がゼロ」と酷評して、ノミネートすら認めなかった。
この映画は、映画好きな人にはあまりウケず、サブカル好きには物凄くウケた映画だった。
Yori (I/O program) & Tron (Security program), 1982 "TRON" Steven Lisberger Walt Disney Pictures |
特に、当時の何も出来ないCGでどう見せるか、という工夫から導き出されたデザインはもっと評価されていい。
まず基本的に、自然由来の物質はほとんど灰色で、人工的な物質はほとんど真っ黒か真っ白なのである。
そして、人物やガジェットを見分けるのは、極力単純化された光の線と面、それらの色だけである。
これらの意匠は第二作目が初見の観客には相当不評だったらしく、暗すぎる、黒すぎる、と散々だったようだ。
確かに、なんでもかんでもディテール足しまくり、あるいは見せまくりのハリウッドでは異質なのかもれない。
Quorra (Isomorphic algorithm, aka ISO) & Sam (User), 2010 "Tron: Legacy" Joseph Kosinski Walt Disney Pictures |
だが、ディズニーは前作同様、そんな「時代遅れ」の観客たちに尻込みする必要は一切ない。
恐らくトロンは、映画館やDVD、玩具やフィギュアといった商品で物体化しようとする限り、満足感は得られない。
将来、観客が脳神経とメディアを直接繋いで映像の中に没入できるような時代になってこそ、真価を発揮する。
何故なら70年代以降、数多のSF作家が夢見た、身体という束縛から電子的に開放されるおとぎ話なのだから。
塵ひとつない完璧な映像の中でこそ、トロンは映えるのだ。
Sam : Games?
Where are you going?
... What am I supposed to do?
サム : ゲーム?
どこに行くんだ?
・・・俺はどうしたらいいんだ?
Gem※ : Survive.
ジェム : 生き残るのよ。
※異種同形(Isomorphic)の演算プログラム、ISO(アイソー)の一人。
"Tron: Legacy" Joseph Kosinski Walt Disney Pictures |
さて、1982年の映画「トロン」と2010年の映画「トロン:レガシー」には約28年間もの空白期間がある。
この空白を繋ぐスピンオフ作品が、2013年に公開されたTVアニメ「トロン:ライジング」(原題:Tron: Uprising)だ。
子供たちがアマゾンやディズニーに入ってるので、おこぼれ的に観させてもらう情けない視聴者として鑑賞した。
各回が二十数分くらいで全19話の感想は、久しぶりに、TV番組として製作されたアニメ作品を観て感動した。
物語を簡単に書くと、死んだと思われていた英雄トロンと、後継者の若者ベックによる成長譚である。
"TRON: Uprising" Charlie Bean / Robert Valley Disney XD |
旧制作陣を総括に控え、新人のチャーリー・ビーン監督(一部ショーン・ベイリー監督)が実際の指揮を執る。
時間枠に余裕があるからか、脚本は各回と全体を貫く主旨に一貫性があり、2つの映画もしっかりと繋がる。
映像は映画「トロン:レガシー」を踏襲するものの、想像の羽を自由に伸ばす余裕もあって観ていて気持ちがいい。
音楽は、テクノは勿論、EDM系が好きな人には必見(聴)の方々が参加している。
そして、話題にならないのが本当に不思議だ、アニメーション自体はポリゴン・ピクチュアズによる日本製なのだ。
Quorra voiced by Olivia Wild, 2013 "TRON: Uprising" Charlie Bean / Robert Valley Disney XD |
キャラクター群は、架空2Dバンド「ゴリラズ」で知られるようになったアニメーターのロバート・バレー。
ISO(アイソー)時代のクオラなんか実写以上にクオラで驚いたが、これは声優がご本人なので尚更かもしれない。
既存の登場人物を似せるのは常套として、新しい登場人物たちも魅力たっぷり、しかしキリがないので一人だけ。
特に、主人公ベックと敵対しつつも苦悩するメインキャラクター、元医療プログラムのペイジはとても気に入った。
実写化も想定内だろうけれど、彼女のキャスティングはちょっと思いつかない。
Paige voiced by Emmanuelle Chriqui, 2013 "TRON: Uprising" Charlie Bean / Robert Valley Disney XD |
ガジェット類は、次世代のシド・ミードと評され、VWやロータスで実車を手掛けたデザイナーのダニエル・サイモン。
様々なライト何々、ライト・サイクル、ライト・ランナー、ライト・ジェット、ライト・クルーザー、ライト・チョッパー、等々。
そして今作で最も驚いた造形は動力車を中心に挟んだ7両編成のモノレール、ライト・レール(Light Rail)だ。
蒸気機関車の動輪のような走ると回る意匠が描かれており、こういうコンセプトの電車?は今迄に見たことがない。
チラッとだが、ライト・レールは上のクリップ「TRON LIVES!」(Paint Bombed)や下のトレーラーにも出ている。
Train concept art by Daniel Simon, 2012 "TRON: Uprising" Charlie Bean / Robert Valley Disney XD |
今回、トロンについて書いたのは、理由があるんだよ。
ある自動車会社の関連ニュースを読んで、久しぶりに思い出した台詞があったから。
役職に就く人は、会社にその役職が存在する意義や理由を常に忘れちゃいけないと思う。
会見で「役員からの要請を現場が必達目標と勘違い」なんて、いくらなんでも現場の社員さんが可哀想だよ。
逆に、社員が「役員からの必達目標を現場が要請と勘違い」なんて説明して納得する役員がいるかい?
今の時代は自分自身も含めて、無責任な人間がいろいろ言ったり書いたりする。
そういった誹謗中傷に晒されても耐えられるかどうかは、意義や理由が見つけられるかどうかだと思うんだ。
だけど本当は、会社は社会的な存在のはずなんだから、誰だって最初から解ってたはずなんだよ。
みんな、もし解らなくなった時は、トロンが最後に言った台詞を思い出そう。
Tron : I fight ... for the Users!
トロン : 俺が闘うのは・・・ユーザーのためだ!
Derezzed - Original Motion Picture Soundtrack "TRON: Legacy" Daft Punk "Tron: Legacy" Joseph Kosinski Disney Records |
俺が働くのは・・・
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