May 10, 2016

緑日

当事者よりも、第三者に任せた方がよいことがある。

ロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督は、重い。
心労で倒れてしまわないだろうかと心配になるほど重いが、毎回、ああ、映画を観たな、と感じさせてくれる。
ロマノフ王朝の収蔵品目に興味があった時期に観た映画「エルミタージュ幻想」なども本当に素晴らしかった。

彼は、1990年代末から「権力者四部作」を題材に掲げて作品を発表していることでも知られる。

Issey Ogata as Emperor Shōwa (Hirohito)
"Солнце" Александр Сокуров (En: "The Sun" Alexander Sokurov)
Nikola Film (Russia) / Proline Film (Russia)
Downtown Pictures (Italy) / MACT Productions (France) / Riforma Films (Switzerland)

題材の内容や物語の密度から考えると、驚くべきペースだ。

1999年、ヒトラーと愛人(最終的に妻)だったエバ・ブラウンのプライベートを描いた映画「モレク神」。
2001年、レーニンが健康状態を悪化させて引退した後のある一日を描いた映画「牡牛座 レーニンの肖像」。
2005年、終戦前後の昭和天皇を描いた映画「太陽」、である。

映画「太陽」(露:Солнце, 英:The Sun)は、日本人から観ても価値のある「邦画」になっている、と思う。

"Солнце" Александр Сокуров (En: "The Sun" Alexander Sokurov)
Nikola Film (Russia) / Proline Film (Russia)
Downtown Pictures (Italy) / MACT Productions (France) / Riforma Films (Switzerland)

良かれ悪しかれ、多少なりとも誰にだって同族嫌悪はある。

邦画を観ると、どうしても知り合いが演じているような感じがして、まま気恥ずかしい時がある。
映画「太陽」にも日本人は沢山出演しているのだが、どういう理由か、そういう居心地の悪さを感じなかった。
それが監督の力量なのか、舶来なら有り難いと思ってしまうような単純な劣等感なのか、それは解らない。

ただ、イッセー尾形さんは、形から入っているとしても、それを極めれば精神が宿るといった風であった。

Kaori Momoi as Empress Kōjun (Nagako)
"Солнце" Александр Сокуров (En: "The Sun" Alexander Sokurov)
Nikola Film (Russia) / Proline Film (Russia)
Downtown Pictures (Italy) / MACT Productions (France) / Riforma Films (Switzerland)

不思議に、そして面白く感じたのは、陛下以外のキャスティングである。

陛下以外は敢えてそうしたのだろうと思うくらい、実在した人物に似ていない役者がキャスティングされている。
似ていないから駄目ということではなく、周りがそうすることで、イッセー尾形さんの演技がより際立つ仕組みだ。
これが抜群に功を奏していて、御前会議の様子などはちょっと今迄に観たことがない、くらいの緊張感である。

そして同時に、口角泡を飛ばすばかりが熱演ではない、ということもよく解る映画であった。

"Солнце" Александр Сокуров (En: "The Sun" Alexander Sokurov)
Nikola Film (Russia) / Proline Film (Russia)
Downtown Pictures (Italy) / MACT Productions (France) / Riforma Films (Switzerland)

陛下が夢にまで見て苦悩する、東京大空襲のシーンは賛否が別れると思う。

しかし、これは誰が描いても賛否が別れるだろう。
ハリウッドならアクション満載、邦画ならお涙頂戴、そのどれもが言い方は悪いが、観客に飽きられている。
少なくとも、監督が提示した「幻想的な東京大空襲」は、芸術という手段でのみ許される悪夢だとは思う。

人間は複雑な存在であり、ピカソの「ゲルニカ」のように、ドキュメンタリータッチだけがリアルへの道筋ではない。

Robert Dawson as General Douglas MacArthur
"Солнце" Александр Сокуров (En: "The Sun" Alexander Sokurov)
Nikola Film (Russia) / Proline Film (Russia)
Downtown Pictures (Italy) / MACT Productions (France) / Riforma Films (Switzerland)

興味深いのは、監督が映画「太陽」の次作、権力者四部作の四作目に選んだ人物だ。

それは16世紀頃のドイツの錬金術師ヨハン・ファウストで、2011年に公開された映画「ファウスト」である。
ファウストに挑んだ作家は多いが、そこは無論、ゲーテの長編戯曲「ファウスト」がベースになっている。
ただし、実在はしたものの、彼の人生はほぼ全てが後の創作に基づいている、というのが肝だ。

誰もがファウストのように「時よ止まれ」と叫んで悔いのない瞬間を望み、その点においてのみ人間は平等である。

"Солнце" Александр Сокуров (En: "The Sun" Alexander Sokurov)
Nikola Film (Russia) / Proline Film (Russia)
Downtown Pictures (Italy) / MACT Productions (France) / Riforma Films (Switzerland)

なんでこんな話を書いたのかというと、先日、子供たちとちょっと遊んだ時の出来事だ。

さて、今日は何の日でしょう、と、特に意味もなく、GWだから適当に言ってみただけである。
こどもの日、ってそりゃ明後日だろが、じゃあ代休、って何の休みの代わりやねん。
憲法記念日、その発音じゃ健保だろ、け・ん・ぽ・う、ケンポー、ってそれ何。

本当は俺だってよく知らん、ああ、みどりの日ってのはなー、となったからである。

"Солнце" Александр Сокуров (En: "The Sun" Alexander Sokurov)
Nikola Film (Russia) / Proline Film (Russia)
Downtown Pictures (Italy) / MACT Productions (France) / Riforma Films (Switzerland)

学校の先生も中身までとは言わない、けれど、せめて祝日の名前くらいは教えといてください。

お願いします。