February 12, 2017

必中

もうほとんど忘れたんだけどさ。

スティーヴン・ハンターの小説に熱中した時期があったんだよね。
熱中してたのにほとんど忘れた、なんて変じゃないかと思うかもしれないけど。
ただまあだいたい、主人公が陰謀に巻き込まれてどうこう、てな話ばっかりだから。

元新聞記者さんで、映画評論でピューリッツァー賞を受賞するくらいだから文体は物凄くしっかりしてるけど。

ある程度内容を覚えてるのは、やっぱり処女作の「極大射程」(原題:Point of Impact)だね。
主人公のボブ・リー・スワガーは凄腕の狙撃手だったんだけど、世捨て人になって山奥で隠居してたわけ。
ところが、ある依頼を受けなければならない事情ができて、狙撃の感覚を取り戻そうとするのね。

この、狙撃の感覚を取り戻そうとして、大自然の中で鹿撃ちをする、という章だけは覚えてるんだ。

この章だけは詩的というか、身体的な描写よりも心理的な描写に重きが置かれてる。
全てを捨てた主人公が鹿撃ちの一発に微かな希望を掛けて、雨の降りしきりる森の中で待ち続けるんだ。
一発で命中させなければ意味がない、そう、今後の人生はないも同然になるんだよ。

心を研ぎ澄まして集中するってのは、こういうことなのか、って感じたもの。

いや、なんでこんなことを思い出したかっていうとね。
そういうさ、一枚に全てを込めるような撮影って、もう何十年もやってないな、って。
数撃ちゃ当たるが安全のための用心なのは充分解ってるってば、だけどさ。

バシャバシャバシャ、どれかは当たってるだろ。

これは堕落だよ、ある意味すごく危険だ。
もう少し、一枚を切る重みがあってもいいんじゃないのか。
じゃあスナップ撮ればとか、そういう意味じゃないっての。

緊張感がなくなると、見えてるものも見えなくなるからさ。

Breathe This Air - "Immunity" Jon Hopkins
Domino Records

監督さんも、あの鹿撃ちの場面を読んだのかな。