就任演説の直後に、その中のある一節が「怪しいネタ」として話題になっていた。
ノーラン版三部作のバットマンで最後の宿敵となった悪役、ベインの台詞とそっくりな一節があるのだ。
この就任演説は政策アドバイザーで現大統領補佐官のスティーブン・ミラーが草稿を書いたとされる。
もちろん最終的に何をどうやって話すかは大統領自身が決定している。
就任式の日、トランプ大統領はまず、列席した元大統領やオバマ夫妻への挨拶と謝辞を述べた。
そして、いよいよ今後の政策や方針を語り始める冒頭で、こう述べたのである。
特に文末は、言い回し方から間の取り方まで、確かにベインにそっくりなのだ。
Today's ceremony, however ... has very special meaning.
Because today, We are not merely transferring power from one administration to another, or from one party to another ...
but we are transferring power from Washington,D.C., and giving it back to you ... the people.
本日の就任式は、しかしながら・・・非常に特別な意味があります。
なぜなら本日は、我々が現政権から別の政権へ、ある政党から他の政党へ権力を移譲するのではなく・・・
然るに我々がワシントンDC(政府)から権力を、皆さんに・・・国民に取り戻したからです。
"Batman: Vengeance of Bane" Chuck Dixon Comic artist: Graham Nolan & Eduardo Barreto DC Comics, Inc. 1993 |
この「And giving it back to you ... the people.」を言い終えると、集まった人々からは歓声が上がった。
ただし、何度も書くが英語は文字だけなら You は You でしかなく、 People は People でしかない。
これが日本語だと、皆さんでなく諸君だとか、人々ではなく国民だとか、いろいろな言い回しで「加工」できる。
その意味では、文中での単語の意味合いをあまりにも無視した難癖のようにも思えて、笑われるのも仕方がない。
ちなみに、ベインの台詞はこうだ。
ノーラン版三部作の最終作、映画「ダークナイト ライジング」の中盤。
ウェイン社から強奪された中性子爆弾によって、ゴッサム・シティは市民ごと人質になってしまった。
首謀者のベインは「解放者」を名乗り、隠されてきた「事実」を暴露する。
刑務所に集まったマスコミを前に、市民を扇動しようと目論むベインの演説が始まった。
Bane's Blackgate Prison Speech - "The Dark Knight Rises" Christopher Nolan, St: Hans Zimmer, US 2012
"The Dark Knight Rises" Christopher Nolan Warner Bros. Pictures |
Behind you ... stands a symbol of oppression.
Blackgate Prison, where a thousand men have languished under the name of this man ...
Harvey Dent ... who has been held up to you as the shining example of justice!
ベイン:
お前ら(マスコミ)の背後にあるのは・・・抑圧の象徴だ。
ブラックゲート刑務所、ある男の名を冠した法律によって千人が不当に収監されている・・・
ハービー・デント・・・お前らが輝かしき正義の象徴として担いでいる野郎だ!
Blake:
We need to keep you moving until we can get you in front of a camera.
ブレイク:
俺たちはカメラの前に出れるようになるまで逃げていた方がいい。
"The Dark Knight Rises" Christopher Nolan Warner Bros. Pictures |
You have been supplied with a false idol, to stop you tearing down this corrupt city!
Let me tell you the truth about Harvey Dent, from the words of Gotham's police commissioner ... James Gordon.
"The Batman didn't murder Harvey Dent.
He saved my boy, then took the blame for Harvey's appalling crimes so I could,
to my shame, build a lie around this fallen idol.
I praised the madman who tried to murder my own child, but I can no longer live with my lie.
It is time to trust the people of Gotham with the truth, and it is time for me to resign."
... And do you accept this man's resignation!?
And do you accept the resignation of all of these liars!?
Of all the corrupt!
ベイン:
お前らは偽りの偶像を与えられたんだ、この腐りきった街の崩壊を防ぐために!
ハービー・デントの真実を教えてやろう、ゴッサム市警本部長の書類・・・ジェームズ・ゴードンだ。
「バットマンはハービー・デントを殺していない。
彼は私の息子を救い、ハービーの凶悪犯罪を被ってくれたにも関わらず私は、
恥知らずにも、偽りの偶像に仕立て上げてしまった。
私は息子を殺そうとした狂人を称賛し続けてきた、しかし私はもはや嘘に耐えられない。
ゴッサムの市民は真実を知る時であり、それは私が辞任する時だ。」
・・・そうだとして、お前らはこんな男の辞任を認めるのか!?
そうだったとして、こんな嘘つきどもの辞任を認めるのか!?
全てが腐敗しきってる!
Those men locked up for eight years in Blackgate and denied parole under the Dent Act ... based on a lie?
ブレイク:
彼ら(囚人)はデント法で仮釈放すら認められずブラックゲートに8年間は収監されてきた・・・もともと嘘だったと?
Gordon:
... Gotham needed a hero.
ゴードン:
・・・ゴッサムには英雄が必要だった。
Blake:
It needs it now more than ever.
You betrayed everything it stood for.
ブレイク:
今こそ必要だというのに。
それをあなたが何もかも裏切ってしまったんだ。
Gordon:
There's a point ... far out there, when the structures fail you.
When the rules aren't weapons anymore, they're shackles, letting the bad guy get ahead ...
One day, you may face such a moment of crisis.
And in that moment, I hope you have a friend like I did!
To plunge their hands into the filth, so that you can keep yours clean!
ゴードン:
これはいずれ・・・君も理解してくれる時が来る。
法律という武器が役に立たず、足枷になり、悪人を野放しにしてしまう・・・
いつの日か、君がそういう犯罪に直面するんだ。
その時、君に頼れる友人がいることを私は願ってるさ!
(バットマンは)泥に自らの手を突っ込んでくれた、だから君だって汚れずに済んでるんだぞ!
Blake:
Your hands look plenty filthy to me, Commissioner.
ブレイク:
私にはあなたの手も汚れているように見えます、本部長。
Bane:
We take Gotham from the corrupt!
The rich, the oppressors of generations who have kept you down with myths of opportunity!
... and we give it back to you ... the people.
Gotham is yours.
None shall interfere, do as you please.
But start by storming Blackgate and freeing the oppressed!
ベイン:
俺たちは腐敗からゴッサムを取り戻す!
金持ちめ、奴らはいつか幸運が訪れるかのように見せかけながら常にお前たちを迫害しているだけだ!
Step forward, those who would serve!
For an army will be raised!
The powerful will be ripped from their decadent nests ... and cast out into the cold world that we know and endure!
ベイン:
一歩前進だ、彼らの誰が従うものか!
自警団を作るんだ!
権力を持った連中を引きずり出せ・・・そして俺たちが味わされてきた冷酷な現実に放り込んでやれ!
Bane:
ベイン:
"The Dark Knight Rises" Christopher Nolan Warner Bros. Pictures |
Courts will be convened!
Spoils will be enjoyed!
Blood will be shed!
The police will survive, as they learn to serve true justice!
This great city ... it will endure.
Gotham will survive.
ベイン:
裁きは成されるだろう!
楽しみは分かち合うんだ!
血が流れるだろう!
警察は生き残りたければ、果たすべき真の正義を学べ!
この偉大なる街は・・・耐え抜くぞ。
ゴッサムは生き延びるんだ。
ここ数年くらいで、映画を鑑賞する際にちょっと注意するようになった人物がいる。
洋画が好きでサントラに興味のある人なら最早定番になりつつあるが、作曲家のハンス・ジマーだ。
彼の映画音楽は映像の演出以上に演出効果があり過ぎて、監督の力量を超えた働きをしていることが多々ある。
例えば、ノーランの作品は巷でよく「重厚感」と評されるが、その本質は映像ではなく、音楽にあるのではないか。
このベインの演説だって、実は大したことは言ってない(トランプさんの就任演説だってそうかもしれないが)。
ところがジマーの音楽があると、何だか物凄いことを言ってるような雰囲気になるのだ。
彼の仕事のペースやクオリティから考えると、本当に一人で作曲してるのかと疑ってしまう程だ。
もちろんその都度チームは組むだろうが、それでも現在において天才的な作曲家であることは間違いない。
特に2000年代後半からの仕事量は異常なレベルで、年に5本以上のサントラを掛け持ちすることもザラなのだ。
あの大御所、ジョン・ウィリアムズでさえ年に5本の作曲というのは無理だった。
しかしジマーは、万人受けするギリギリのラインで、万人が新しいと思う(理解できる)音も確実に入れてくる。
そして、それらの音がほぼ間違いなく映画にとって的確な演出効果となり、ほぼ満遍なく売れる映画となるのだ。
あまりの活躍振りに、ジマーの音楽を抜いたら駄作になる映画が結構あるのでは、と疑うようになった。
個人的に、映画は映像であって欲しい。
映画で削りに削って残るもの、残らねばならないものは、映像であって音楽ではないはずだ。
究極として、台詞も音も音楽もない映像だけの映画は、映画として成立し得る。
そういう本質を忘れて流行に振り回されると、それこそベインに粛清されちゃいますよ、マスメディアさん。
洋画が好きでサントラに興味のある人なら最早定番になりつつあるが、作曲家のハンス・ジマーだ。
彼の映画音楽は映像の演出以上に演出効果があり過ぎて、監督の力量を超えた働きをしていることが多々ある。
例えば、ノーランの作品は巷でよく「重厚感」と評されるが、その本質は映像ではなく、音楽にあるのではないか。
このベインの演説だって、実は大したことは言ってない(トランプさんの就任演説だってそうかもしれないが)。
ところがジマーの音楽があると、何だか物凄いことを言ってるような雰囲気になるのだ。
彼の仕事のペースやクオリティから考えると、本当に一人で作曲してるのかと疑ってしまう程だ。
もちろんその都度チームは組むだろうが、それでも現在において天才的な作曲家であることは間違いない。
特に2000年代後半からの仕事量は異常なレベルで、年に5本以上のサントラを掛け持ちすることもザラなのだ。
あの大御所、ジョン・ウィリアムズでさえ年に5本の作曲というのは無理だった。
しかしジマーは、万人受けするギリギリのラインで、万人が新しいと思う(理解できる)音も確実に入れてくる。
そして、それらの音がほぼ間違いなく映画にとって的確な演出効果となり、ほぼ満遍なく売れる映画となるのだ。
あまりの活躍振りに、ジマーの音楽を抜いたら駄作になる映画が結構あるのでは、と疑うようになった。
個人的に、映画は映像であって欲しい。
映画で削りに削って残るもの、残らねばならないものは、映像であって音楽ではないはずだ。
究極として、台詞も音も音楽もない映像だけの映画は、映画として成立し得る。
そういう本質を忘れて流行に振り回されると、それこそベインに粛清されちゃいますよ、マスメディアさん。