隣に腰かけると、空気清浄機能のあるテーブルに会社持ちの携帯電話を置く。
まったく、本当に困るんですよね、現場の連絡ってものがなんとかかんとか、以下小言が続いた。
だから、あの撮影の後でタクシー移動って指示がそもそもの原因だとか、こちらも言い訳を云々。
まあ何かあれば、マネージャーの君に連絡が入るんだから問題ないじゃん、とは言わないが。
自分では、携帯を使わない方だと思っている。
普通の携帯だし、それすらあまり使わないのだから、スマホなんてまったく興味がない。
電車に乗っても、タバコを吸っても、ベッドに入っても、携帯がないと本当に何もやることがない。
いつも携帯を入れているポケットが着信で震えているような気がする錯覚もあった。
首を傾げたり、指を鳴らしたり、貧乏ゆすりをしてみたり、ストレッチのようなことをしてみたり。
どれも駄目で、携帯を持っていれば携帯をいじっていたであろう時間を、上手く消化できなかった。
ところが、携帯によっていつの間にかぼーっとできる耐性がかなり下がっていたようだ。
そう考えると、スマホなんて持ったら依存どころじゃなくなる。
撮影データを落として、ざっと眺めながらおおまかなセレクトの見当をつける。
あれも、これも、またもや青が上手くいかない。
ホワイトバランスの設定は当然として、他にも調整してみるんだが、いつもこの青で苦労する。
報道関係の締め気味な露出なら問題ないが、こちらは最終的に飛ばし気味の露出へ持っていく。
会社指定の備品なので文句を言っても始まらないが、これと思うカットに限って青が強い。
それがまた、レタッチのバッチでは一気に済まないような、絶妙な不揃い加減なのだ。
何も手を加える必要のないまともなカットなのに、手を加えるべきと穿って考えてしまうようになる。
着信がないのに、ポケットに入れた携帯が震えた気がする錯覚と同じかもしれない。
そういう意味では、よほど心しないと、素直に見ることができない。
レタッチで怖いのは、最終的な絵作りの何もかもが平坦になってしまうことだ。
パワーツールは、アクセルワークよりもブレーキワークが肝心。
タバコを消して、換気扇が回ってないことに気がついた。
某月某日、某スタジオ、駐車場に面した喫煙所。
セッティングを済ませ、先に一服していたアシスタントがペコリと一礼してきた。
彼はまだ学生で、通っている大学はこの世界とは全く関係がない。
しばらく前に、中退するかしないかで悩んでいる、という話を聞いた。
あれから結局、どうするつもりなのか。
やはり中退するつもりで、本格的にこの世界に入りたいという。
その心意気や良し、なんて言わない。
絶対に辞めるな、石にかじりついてでも卒業しろ、と力説した。
いいか、事故りたくて自動車保険に入る奴、癌になりたくて癌保険に入る奴、いないよな。
つまり、そういうことなんだよ。
学費を親が支払ってくれてるなら、尚更だ。
何の役にも立たない、つまらない、下らない、馬鹿みたいな支払い損でいいんだよ。
だって保険なんだから。
仮に、保険が役立つ時があったとしたら、それって人生においてピンチの時ってことだろ。
後で入っときゃよかった、卒業しときゃよかった、なんて悔やんでも遅いんだよ。
もちろん夢を語るのは構わんさ。
でもな、ピンチも夢も、先のことは誰にも解らないんだから、確率として同率だろうが。
主観的だからこそ、ピンチに怯えたり、夢に賭けちまうんだ。
客観的に自分を見つめることが出来るってんなら、気軽に中退なんて選ばないはずなんだ。
そうそう、夢を簡単に認める奴がいたら、絶対に信用するなよ。
そいつはお前さんのことを間違いなく真剣に考えてないって証拠だ。
珍しくいろいろ話してくれますね、何でですか、と聞かれて一気に冷めた。
この歳で家族に迷惑かけてる身だからな、とだけ答えてタバコを消した。
セッティングを済ませ、先に一服していたアシスタントがペコリと一礼してきた。
彼はまだ学生で、通っている大学はこの世界とは全く関係がない。
しばらく前に、中退するかしないかで悩んでいる、という話を聞いた。
あれから結局、どうするつもりなのか。
やはり中退するつもりで、本格的にこの世界に入りたいという。
その心意気や良し、なんて言わない。
絶対に辞めるな、石にかじりついてでも卒業しろ、と力説した。
いいか、事故りたくて自動車保険に入る奴、癌になりたくて癌保険に入る奴、いないよな。
つまり、そういうことなんだよ。
学費を親が支払ってくれてるなら、尚更だ。
何の役にも立たない、つまらない、下らない、馬鹿みたいな支払い損でいいんだよ。
だって保険なんだから。
仮に、保険が役立つ時があったとしたら、それって人生においてピンチの時ってことだろ。
後で入っときゃよかった、卒業しときゃよかった、なんて悔やんでも遅いんだよ。
もちろん夢を語るのは構わんさ。
でもな、ピンチも夢も、先のことは誰にも解らないんだから、確率として同率だろうが。
主観的だからこそ、ピンチに怯えたり、夢に賭けちまうんだ。
客観的に自分を見つめることが出来るってんなら、気軽に中退なんて選ばないはずなんだ。
そうそう、夢を簡単に認める奴がいたら、絶対に信用するなよ。
そいつはお前さんのことを間違いなく真剣に考えてないって証拠だ。
珍しくいろいろ話してくれますね、何でですか、と聞かれて一気に冷めた。
この歳で家族に迷惑かけてる身だからな、とだけ答えてタバコを消した。