January 30, 2013

慟哭

あはは。
こいつはいいや。
ははは!

やい、お前ぇたち、いってぇ百姓をなんだと思ってたんだ。
仏様とでも思ってたか、ん?
笑わしちゃいけねえや、百姓くらい悪擦れした生き物はねぇんだぜ。

くそっ!

米出せっちゃ、ねぇ!
麦出せっちゃ、ねぇ!
なにもかもねぇ、ってぬかす。
ほっ、ところがあるんだ、なんだってあるんだ。
床板ひっぺがして掘ってみな、そこになかったら納屋の隅だ。
出てくる出てくる、瓶に入った米、塩、豆、酒!
山と山の間に行ってみろ、そこには隠し田だ!

正直面してぺこぺこ頭を下げて嘘をつく、なんでも誤魔化す!
どっかで戦でもありゃ、すぐ竹槍作って落武者狩りだ!
よく聞きな、百姓ってのはな、けちん坊でずるくて、泣き虫で、意地悪で、間抜けで、人殺しだ!
ちきしょう、悔しくて涙が出らぁ!

だがな、そんな獣を作りやがったのは、いったい誰だ。

お前ぇたちだよ、侍だってんだよ!
戦のたびに村を焼く、田畑を踏み潰す、食い物は取り上げる、人夫はこき使う、女を襲う、手向かえば殺す!
いったい百姓はどうすりゃいいんだよ!
百姓はどうすりゃいんだよ、百姓は!
ちきちょう、ちきしょう!

ちきしょう!
村人たちとの談義後、菊千代の台詞(一部略)  「七人の侍」 黒澤明

Surfing on a Rocket - "Talkie Walkie" Air

世の中を動かしたい者が、世の中を動かしている。

罪人に石を投げるな。
しかし、投げろと言われて、投げてしまう者もいるだろう。
投げたくない者はどうすればいい?

本当に、どうすればいんだろう。

January 16, 2013

遅配

千葉県何々群其々町、24時間スーパー、荷降ろし場。

今朝は冷えますね、店長。
ん、冷えるな。
風の唸りに、微かに遠雷の響きが混じる。

このまま、待機を。
雪も凍る早朝に、何処かで救急車のサイレン。
時間です、店長。

時間か。
確かに、時間だな。
トラックが一台も停まっていない荷降ろし場を眺め直すと、店長は事務室へ向かった。

"The Hunt For Red October" John McTiernan

なんてことを冗談で考えてる場合ではない。

先日、正午過ぎから振りはじめた雪は、以降の客足を完全に止めてしまった。
同時に、翌日早朝までに到着するはずの仕入れのトラックも止めしてしまった。
在庫と賞味期限の歩調が狂い始める。

担当している商品で賞味期限がシビアなのは、牛乳やヨーグルト、豆腐や納豆など。
特に豆腐は大量に残っており、急遽、特売コーナーとして平場(ひらば)を組むことになった。
すると、関係ない商品なのに、これも並べてくれよ的な割り込みが入る。

クリスマス用のホイップクリームだ、正月用の漬物だ、皆が隙あらば不良在庫をさばこうと虎視眈々としている。
この前間違って大量に仕入れた豆乳を一緒にどうか、とか、ソーセージに譲って損はないぞ新人、みたいな。
説明を聞くと、確かに豆乳は豆腐の親戚だし、確かに最近のコンビニのおでんにはソーセージが入ってる。

ここらへんの駆け引きは古参も新人もあまり関係がなく、アイデア次第で結構自由に平場を組める。
ただ、値引き率の決定権だけは艦長、じゃなかった、店長にある。
持ってけ泥棒の売り札を貼っても、実はばっちり採算が取れていたり、本当に捨て値だったりする。

なんだかよく解らないまま、いつの間にかキュウリのキューちゃんが3割引きになってしまった。

Save money. Live better. - Walmart
目指すはウォルマート、とのこと。

January 14, 2013

淡雪

雪だ。

寒いね。
珈琲、飲もう。
そうだ、たまには砂糖を入れようか。

"Waltz for Debby" Monica Zetterlund & Bill Evans

これ、オリジナルには歌詞なんてないよ、歌詞をつけることになったのは偶然なんだ。
ビルはいつも難しい顔で弾いてる印象があるけど、モニカの前ではなんだか優しい顔してる。
葉巻ふかしながら微笑んでるもの。

明日も雪なのかな。

January 13, 2013

空気

余程の鈍感でもないかぎり、誰でも気付きはする。

気付くままに行動すると、それが余計な親切になったり、お節介になってしまうことがある。
ワンテンポ、と言っても一瞬の判断になるが、ちょっとくらいは考えるようにした方がいい。
気付いても気付かないフリをする、それが最良の心遣いとなる時もあるのだ。

それが出来ないなら、いっそのこと本当に鈍感な方がいい。
不躾で身勝手な奴かもしれないが、正直な奴ではあるのだから。
そこに悪意はない。

ただし、鈍感な奴の善意というのも、困ったものではあるが。


今の職場の全体的な男女比率は、約3対7くらいだろうか。

冷凍庫、じゃなくて冷凍「室」は、マイナス25度以下に設定されている。
この中で在庫確認などしていると、外から持ち込んだ台車の鉄パイプが熱収縮でミシミシと唸りはじめる。
そろそろ限界と思って、冷凍室を出る。

冷凍室を出るとバックヤードの廊下になるが、トラックの荷降ろし場に面しているので外気と同じ気温だ。
コンクリートの床や壁に霜が降りているので今晩は零度前後くらいか、などと思いながら台車を押していく。
行政区分としては一括りかもしれないが、自然環境として本当にこの地域は関東圏なのかと疑うくらい、寒い。

冷蔵庫、じゃなくて冷蔵「室」は、約3度に設定されているので一番暖かい。
店内を除き、バックヤードの中では本当に冷蔵室が一番暖かいのだ。
冬は働けば体が動くから温まるはず、夏は冷凍室か冷蔵室で働けるだけ有り難く思え、という感覚。

経費削減も含めて1円単位でやりくりする商売だから、事務室や休憩室も空調はあるが使用禁止。
もしかしたら、バックヤードに引っ込まないで店内へ出て仕事しろ、という工夫された方法なのかもしれない。
ただ、スタッフの喫煙率が高いのは有り難く、ちゃんとした喫煙室があって、その中にはホットドリンクもある。

一段落ついて一服していると、数人のパートのおばさん達が入ってきた。

"I Now Pronounce You Chuck & Larry" Dennis Dugan

あちらがおばさんなら、こちらも同世代のおじさんなのだが、多勢に無勢で話題は次の2点に絞られる。

まず、こちらの履歴。
履歴というか、要は何故ここに入社したのか、という面接の如き理由を根掘り葉掘り聞かれる。
はあ、まあ、その、といった感じで流そうとするのだが、正直に言いなさいよ的なおばさん達の迫力には負ける。

それでも曖昧に誤魔化していると、飽きてきくるのだろう、次の話題になる。
店長がどうの、店員がどうの、新人がどうの、客がどうの、という仕事に関する放談を聞かせてくれる。
壁に耳あり障子に目ありという諺は、同調しないと仲間外れにするわよ的なおばさん達の迫力には負ける。

聞いてません知りませんだけでは誤魔化しきれなくなってきた頃、こちらの休憩時間が終わる。
おばさん達というのは好意的に考えれば社交的だから、助かると言えば助かることもあるのだ。
実際、彼女達の会話に出てくる商品というのは、大いに仕入れの参考になったりする。

これが男同士だと、休憩室に入ってきてもウッスの会釈で終わり。
雑談という名の情報共有には興味がなく、そればかりか業務上の質問にすら答えてくれなかったりする。
そういう、無言の背中から学ぶという世界は嫌いではないが、根性は必要になる。

何れにせよ、人間も人間以外の生物も、本当に怒らせると怖いのは女性、ではないかと思う。

"The  Lost World : Jurassic Park II" Steven Spielberg

そんな空気を読んでも、賃金はちっとも変わらないんだけどね。

January 11, 2013

Techno 0

テクノ。

中学生から高校生ぐらいにかけて夢中になって、その後も様々に影響を受けた。
きっかけは小学生の時の Yellow Magic Orchestra から始まるが、それは次に機会があれば述べる。
また、定義や史実、評価などは、個人的でいい加減な感覚でしかないから予め了承を願う。

【 Kraftwerk 】

先に「個人的」と書いたが、ドイツ人の彼らが原点のひとつであることに異論を挟む者は少ないだろう。
世界は広い、面白い、こういう作品が商業的に成り立ち、こういう作品を求めている人間がいるんだ、と感激した。
もし知らなかったら、あるいは影響を受けることがなかったら、その後はかなり違っていただろう。

実は、最初期の作品や、一般的に第一作目として扱われる「Autobahn」は、少々冗長気味としか感じなかった。
彼らにとっても実験的な作品であり、手探りの状態であったことは後のインタビューなどで読んだ。
それでは、所謂「無人島に持って行くなら」セレクションで、マイベストのアルバムを三枚選んでみよう。

1975年の「Radio-Activity」。

タイトルは、真ん中のハイフンがあれば「ラジオ放送中」、なければ「放射能」という意味になる。
アルバムはこのふたつの意味が混在する構成で、曲間の多くはフェードのアウトとインで明確な区切りはない。
ジャケットの意匠はナチス謹製のラジオ DKE38 に因む。

これをレコードで買って擦り切れるまで聴いていたのだから、時代を偲ばせる。
ミュージック・ビデオはまだ一般的ではなく、残っている当時の映像の多くはテレビ出演の際の再編でしかない。
ジャケットを眺めつつ、あるいは目を閉じ、ビジュアルをイメージしながら聴く、というのが普通だったのだ。

一曲目のガイガー・カウンターで測定後、二曲目の「Radioactivity」が始まる。

Radioactivity - "Radio-Activity" Kraftwerk

1978年の「The Man Machine」。

これも「個人的」にだが、全てに於いて、頂点に達したアルバムだと思う。
テクノ、いや、テクノポップは、このアルバムによって完成し、同時に終わった。
どんなジャンルでも、誕生の原動力になった作品や活動というのは、衝撃の大きさに比してその期間は短い。

この頃から、彼らは自身をコピーしたマネキンを用いてアイロニカルな行動に出始める。
舞台上でカクカク動いて演奏するのがマネキン、観客席に座って微動だにしないのが本人達、ということもあった。
我々は過去のサンプリングに過ぎない、という細野の「リズム限界論またはメロディ限界論」を先んじていた。

アルバムの最後は、アルバムのタイトルと同名である六曲目の「The Man Machine」で幕を閉じる。

The Man Machine - "The Man Machine" Kraftwerk

1981年の「Computer World」。

ここまでが「原点」と言い切れるアルバムなのではないか。
MIDI規格が定まるのは翌年で、つまり、ここまで彼らは完全なアナログ同期のみで曲作りをしている。
ところで、彼らはドイツ人だから当たり前だが、思考回路の基本言語はドイツ語である。

しかし、知名度の上昇と共に、曲名や歌詞をドイツ語版と共に英語を中心とした外国語版でリリースしていく。
当時の日本では英語版の流通が主流だったから、どれだけオリジナルのドイツ語版を聴きたかったことか。
Kraftwerk はドイツ語の読みでカァフトベルク、英語の読みでクラフトワーク、日本語で発電所、となる。

ボク ハ オンガク-カ、デンタク カタテ ニ。
タシタリ ヒイタリ、ソウサ シテ、サッキョク スル。
コノ ボタン オセバ、オンガク カナデル。

二曲目の「Dentaku」は、産業の米と呼ばれた集積回路を大量生産していた頃の極東バージョンである。

Dentaku - "Computer World" Kraftwerk

この三枚は今でもよく聴いている。


【 Note 】

書きたいことは沢山あったはずだが、いざ書くとなかなか書けないものだ。

以降のアルバムは、なんというか、よく聴いてはいるものの、まだ書く段階ではないというか。
クラフトワークが、クラフトワーク自体に納まらない存在になってしまったというか。
1974年に第一作目の「Autobahn」を発表した訳だから、来年で驚愕の約40周年ということになる。

単なるファン心理といえば、それまでか。

例えば、Radioactivity は事あるごとに新しいバージョンやリミックスが発表されている。
歌詞は改訂され続けており、ヒロシマ、セラフィールド、ハリスバーグ、チェルノブイリ、といった具合。
2012年には、フクシマが加わった。

それはいい。

しかし、誤解を承知で書けば、歌詞に No Nukes と入れたことに、物凄い違和感を感じた。
名のある公の存在になったが故に、本来の音楽性と掛け離れた要素が多分に入ってくるようになったのだ。
もし手塚が生きていたとして、原子力の申し子だった鉄腕アトムを、鉄腕ソーラーに改名して発表するだろうか。

いや、手塚なら発表するかもしれない、とも思う。
何故なら、ヒューマニストであることが一番儲かるからだ、と公言した人だから。
そして、本当の自分は如何にヒューマニストではないか、を力説する正直な人でもあった。

政教分離に倣い、政音分離であって欲しいと願う。

Techno 1 / March 10, 2013

January 6, 2013

早朝

商品の補充が一段落する午前4時過ぎ、少しずつお客さんが来るようになる。

もしもし、店員さん。
はい、なんでしょう。
これ、ゴハンは入ってるのかしらねえ。

腰の曲がったお婆ちゃんが、冷凍食品の中華丼を手にしながら聞いてきた。
パッケージに印刷された写真をそのまま信じて買ってみたら、具だけでゴハンがなかったという経験があるらしい。
裏側の製品表示は文字が小さくて読めないのだろう、代わりに読んであげると、ゴハン入り。

夏になると暑気を避け、散歩がてら早朝に来店する老人というのはもっと増えるそうだ。

F·U·Y·A - "DOWN THE ROAD" C2C

乳製品が並ぶ棚の前で在庫台帳と照らし合わせていたら、いきなり名前を呼ばれた。

ちょっと、何々さん。
あまりにもハッキリと名前を呼ばれたから、てっきり関係者かと思って振り向いた。
杖をついてるけど、矍鑠としたお爺ちゃん。

呼びかける以上、しっかり相手の名前を確認してから呼びかける、というお客さんが少なからずいるらしい。
ご所望の品である某社のヨーグルトはまだ入荷されていないのか、との質問。
こういう、メディアで紹介された途端、在庫が一気に不足してしまう商品というのがある。

やっぱり、みのもんたあたりがテレビで何か言ったのだろうか。

Cheerleader - "Strange Mercy" St. Vincent

昼間の奴らが手を抜きやがったな、とか思いながら賞味期限の順にチーズを並べ直す。

スミマセン。
背後から、明らかに日本語じゃないイントネーション。
両手にチーズを持ったまま立ち上がると、サリーを着た綺麗なガイジンさん。

片言だが、某社のジュースを箱買いしたいということが解った。
ハウメニーで指の数は4本、つまり4箱。
共同体のように集団で暮らすアパートで仲間に配るから、ガイジンさんの箱買い率は高いらしい。

倉庫から出した4箱を前にしてニュー・デートだと賞味期限を指し示すと、すごく喜んでくれた。

Cool Arrival - "Suchtreflex, SRX019" Piemont

どこかの24時間スーパーの、どうということのない、早朝の出来事。

January 1, 2013

迎春

新年、明けましておめでとうございます。

旧年中は格別のご愛読を賜り、誠に有難うございました。

本年も何とぞ宜しくお願い申し上げます。


One Day - Type with one finger


元日