着席した司会者は咳払いすると、手を組みながらゆっくりと出席者を見回した。
普段は休憩室として使っている会議室に、なんとも書きようのない雰囲気が漂う。
座り直す音、ボールペンを置く音、資料を一旦揃えてみたりする音。
ひっくり返したビールケースに座っている身分としては、如何ともし難い。
"Margin Call" J.C. Chandor |
映画でなければ、小説でも漫画でも、何でもいい。
ごく普通の、ありふれた日常が、丁寧に描かれている物語が観たいんだ。
ごく普通の、ありふれた日常は、つまらないってのは知ってるよ。
だけど、悲観したってしょうがないじゃないか。
どんなに些細な出来事にだって、捉え方があると思うんだ。
爆発しなくたって、財宝がなくたって、裏切らなくたって、いい。
月々一万円の貯金だって難しいってのに、何億円も費やした物語に付き合ってる方が尋常じゃあないんだから。
殺す殺されるなんていう必然性のある人間が、一体どれだけいるっていうんだ。
誰も死ななくたって、いいじゃないか。
"The Island" Michael Bay |
派手な物語は好きなどころか、むしろ大好きだよ。
喰いたいし、ヤリたいし、死にたくないってのを、コテコテに煮込んでもらって構わないさ。
だけどね、人間を人間たらしめている部分が前頭葉なんだとしたら。
違っているなら、日々の生活なんて出来事は機械的な繰り返しでしかなくなってしまうよ。
金持ちでも楽天家でも逃亡者でも歴史に名を残す偉人でも、貧乏人ですら、それは同じだと思うんだ。
"Elizabeth" Shekhar Kapur |
シェイクスピアにして、たったの36分類法なんて言ってるくらいだ。
ドキドキすることや、ワクワクすることは、ないんだよ。
いや、ドキドキすることや、ワクワクすることは、あるんだ。
砂粒のように些細なことでも、あるはず、なんだ。
そんなことを考えていたら、会議はお開きとなった。