July 22, 2013

月狼

シートン動物記の中で、「狼王ロボ」は孤高の章だ。

1890年代の末期。
アメリカの牧場主から懇願され、イギリスの博物学者アーネスト・T・シートンはニューメキシコへ赴く。
そこから、ロボと呼ばれた狼との信じられないような闘いの日々が始まる。

悪魔が知恵を授けたとまで囁かれ、怖れられている野生の狼だ。

しかし、シートンはとうとうロボの唯一の弱点を掴む。
ある白い毛並みの狼と行動を共にする時にだけ、彼の動きがいつもと異なることに気が付いたのだ。
スペイン語の形容詞で「白い」を意味するブランコに因み、白い毛並みの狼は女性名詞でブランカと名付けられた。

ロボが月に吠えた夜。

ブランカを囮にした最後の罠に、ロボは落ちた。
その時、既に彼女が殺されていることを、彼は悟っていたと思う。
ロボは息を引き取る瞬間まで人の手を拒み続け、ブランカの後を追った。

人の知恵と卑劣さに、シートンは己を恥じた。

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Moonlight - "Beethoven : Sonaten" Daniel Barenboim

その者は狼のようなものである。
その者は狼である。
故に、追放された者である。

                「人狼」 沖浦啓之