今回の最多受賞はジョージ・ミラー監督の「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(原題 Mad Max: Fury Road)。
編集・音響編集・録音・美術・衣装デザイン・メイクアップ&ヘアスタイリング賞で、なんと6部門受賞である。
ノミネートでは監督・作品・撮影・視覚効果賞が加わり、合計10部門で注目されていた。
昨年この映画を観た時、自分は物凄く複雑な気持ちになった。
好き嫌いがはっきり別れるだろうが、そんなことではない。
女性蔑視も資源の無駄遣いも甚だしく、ツッコミどころ満載だが、そんなことではない。
マッドマックスじゃなくてマッドフュリオサと改題していいんじゃないかと思うが、そんなことではない。
こういうのを観ると、感想以前に圧倒されてしまう。
こっちだってささやかながらも何か撮りたいな、絵作りしたいな、という欲を持つ人間だ。
そんなことに自身を投影してあれこれ思い悩むこと自体が間違っているのはよく解っているつもりだ。
それでも、自分には撮れないだろう現実を目の前に突き付けられると愕然としてしまう。
仮に、予算や人材など全て同じ条件を与えるから撮ってみろといわれても、間違いなく撮れない。
何十年も脚本を推敲して配役を練り続ける根性があるか、自分にはできない。
今時CGではなく役者から車輌から何から何まで原則実写にこだわる根性があるか、自分にはできない。
日常生活を送りながらリアル北斗の拳どころではない世界観を維持する根性があるか、自分にはできない。
そうまでして「撮りたい」か。
これを「撮る」んだという強烈な意志がある作品を前にすると、簡単に評価なんてできない。
いくつかの記事に書かれていたが、今回のノミネートの数は功労賞的な意味合いもあったようだ。
つまりハリウッドでさえ、このオーストラリア人の根性は驚きをもって迎えられたということか。
才能以前に根性のかけらもない自分は、それを知って情けなくも少しだけ胸を撫で下ろすのである。
Nux : Immortan! Immortan Joe!
ニュークス : イモータン!イモータン・ジョー※!
※暴走族と宗教団体が一体化したようなシタデル・グループのリーダーの名前、山海塾ではない。
なお、状況に合わせてヘビメタ調のBGMを鳴り響かせる軍楽隊はドーフ・ウォリアーと呼ばれる。
Nux : Wow! He looked at me! He looked right at me!
ニュークス : うお!奴が俺を見たぞ!今俺を見た!
Slit : He looked at your 'Blood bag'!
スリット : お前さんの「血液袋」※でも見たんだろ!
※奴隷となったマックスのことで、輸血チューブとチェーンでニュークスに繋がれている。
イモータンを慕う白塗りのウォー・ボーイズたちは死して天国へ行けると信じて疑わない。
Nux : He turned his head! He looked me in the eye!
ニュークス : 奴は頭を向けた!俺を目で見た!
Slit : He was scanning the horizon!
スリット : 地平線を見たんだろ!
Nux : .... No!
I am awaited, I am awaited in Valhalla!
ニュークス : ・・・違う!
俺は待ちに待ったんだ、俺はヴァルハラ※を待ちに待ってたんだ!
※ゲルマン系のスカンジナビア神話などで考えられていた、死んだ戦士の魂が憩うとされる天界。
Max : Confucamus!
マックス : 畜生※!
※今回、この映画で話題になったひとつがこの謎の台詞。
てっきり Oh, Fuck off! だと思っていたら、ネイティブでもよく聞き取れない発音なんだそうだ。
近未来の荒廃した世界なので、多民族が混ざり合った言語なのではと理解するしかない。
あるいは、マックスは幻覚や幻聴に悩まされている状態なので、特に意味のない言葉なのかもしれない。
あるいは、マックスは幻覚や幻聴に悩まされている状態なので、特に意味のない言葉なのかもしれない。
一応、英語の We are fucked や This is fucked に相当するラテン語の Confucamus が近いとのこと。
Nux : Immortan!
ニュークス : イモータン!
"Mad Max: Fury Road" George Miller Warner Bros. Pictures |
映画「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の総撮影データは約480時間にもなったそうだ。
これを、絞り込んで管理するのがフィルム・エディターである。
苦労したとか勿体ないとか思い入れがあるとか言っていたら、肝心の完成品がグダグダになってしまう。
そこで、脚本の主旨を汲み、演出の選択肢を残しつつ、予めバッサリ切って切って切りまくるのが役目である。
今回、同作品で編集賞を受賞したマーガレット・シクセルは監督の奥様である。
1979年に公開された第一作目から約36年後、第四作目となる本作は、好き嫌いが別れると思う。
ただし、監督自身がこれだけ「撮りたい」と思い続けて実現した映画というのも、そうそうお目にかかる機会はない。
甲斐性のある旦那、という点でも本当に凄いとしか言いようがない。
おめでとう!