先日、こういうことがあった。
夜勤の人員は、基本的にパートが多く、社員が少ない。
更に、役職のある社員は1人か2人くらいしか配置せず、昼間のシフトから交代や臨時で配置する。
すると、夜勤の実態を知らない社員が夜間責任者になることがある。
いつも通り仕事をしていると、滅多に見ない顔の夜間責任者が聞いてきた。
「チルド便、まだ到着しないのか」
いつも3時くらいに到着しますからね、まだですよ、と時計を確認して普通に答える。
「間に合うのか」
はあ、いつも間に合せてますけど、と仕入台帳を確認して普通に答えると、夜間責任者の眉間に皺が寄った。
「ちょっといいか、一服しよう」
誘われるままバックヤードの喫煙室へ。
なんだなんだ、なにか変なこと言ってしまったか、などと疑心暗鬼になって後をついて行く。
夜間責任者は社員割引の缶コーヒーを煽ると、溜息をつきながら聞いてきた。
「いつもの仕事の流れを教えてくれ」
何曜日の夜なので、チルド便は何時頃に到着して、仕入量はこんな感じでやってます、と説明する。
夜のチルド便で届いた商品は、当日の午前8時までに補充を完了しなければならない。
それが心配だったらしい夜間責任者は、眉間から皺を消すと、あっさりこう言った。
「すげえな、昼の倍以上だ」
仕入量を、補充する人数や時間で割り算すると、昼勤と比べて倍以上の仕事量になるらしい。
夜勤には夜間手当や早朝手当が付くが、給料は昼勤の数割増しくらいにしかならない。
喫煙室から先に出て、知らない方が良かったと思いながら店内へ戻る。
商品を補充する手の動きが、極端にのろくなった。
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"Good Bye, Lenin!" Wolfgang Becker |
先日、こういうことがあった。
スーパーの店員、という仕事。
ありふれた、どこにでもある、極々平々凡々な仕事だと思う。
だからなのか、人の出入りは激しい。
勤め始めてから、5人が辞め、3人が入ってきた。
正確には7人が入ってきたのだが、4人は直ぐに辞めた。
こちらも勤務歴が数ヶ月で新人教育係なんだから、教える方も教わる方も大概だ。
「え、あの子も辞めたんだ、なんでさ」
社員以上に百戦錬磨のパートさんが、面白い話ならいくらでも、という感じで理由を聞いてくる。
タバコに火を点け、なんでもなにも、煙を吐き出しながら、こっちが理由を聞きたいくらいですよ。
すると、別のパートさんが、笑いながら言った。
「厳しくやったんじゃないの、あんた怖そうだし」
失敬な。
厳しいなんてとんでもない、厳しくできない性格って言った方が正確なくらいですよ。
パッと見が怖そうな感じだからって、顔は変えられません。
ムッとして、ハッとして、なんとか口角を上げてみた。
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"I Could Be The One" Avicii vs. Nicky Romero |
先日、こういうことがあった。
在庫のダンボール箱を棚に積み上げている。
端末のアラームが鳴る。
退勤時間なので、帰る。
この時、まだ棚に積み上げていないダンボール箱がひとつだけ残っていたとする。
しかし、退勤時間を過ぎて残業の指示がない以上、積み上げる義務は一切ない。
目の前には、在庫のダンボール箱がひとつだけ床上に放置されていた。
誰なのかは知らないが、実際、そういう人はいる。
このダンボール箱はそんなに重くないんだし、ひとつだけ残すって、逆に気持ち悪くないのだろうか。
ただし、残業などに関係なく、最後のダンボール箱を積み上げた方がスッキリするという人は、苦労する。
どんな仕事でも、貴賎なしで頑張れるという人。
こんな仕事なら、軽くあしらって適当でいいという人。
そして、これしか仕事がなく、他に逃げ場がないという人。
苦労を苦労と思わない人。
苦労をしたくない人。
そして、苦労から逃げられない人。
来月、更に5人を追加採用することになった。
この報告を聞いて、愛想はいいんだが何度注意しても賞味期限を間違う新人くんは喜んだ。
俺にも後輩ができるんスね、ばっちりしごいてやるっスよ、と鼻息が荒い。
お前もな、とはこのことだ。
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"The Dictator" Larry Charles |
先日、こんなことがあった。
チクワにハンペン、ツミレなどをまとめた、おでんセットをそろそろ売り切らねばならない。
予め割引可能な範囲の了解をもらっていたので、思い切って3割引のシールを張る。
和日配と洋日配の補充を8時頃に完了して、事務室へ行く。
事務室には放送室がある。
放送室は大袈裟で、電話などの雑音を遮るようにパーテーションで仕切られた放送席があるのだ。
この席から、店内に向けてタイムセールや業務連絡などのアナウンスを流している。
鉄道の車掌さんと同じで、このアナウンスを担当する人は独特の言い回しができる。
まだ出勤していなかったので、おでんセットを3割引にしました、というメモを残そうとペンをとった。
すると、書類の山々に埋もれて、有線放送(USEN)が埃を被っているのを発見した。
チャンネルが表示されており、アンプに繋がっているから、驚いた。
店内に流れているBGMは、てっきり著作権フリーのCDでも回しっぱなしにしていると思っていたのだ。
それなら毎日毎日、ポール・モーリアから炭酸ガスを抜いたみたいなBGMばかり流すことないのに。
なんか、こう、店内が明るくなるような音楽を流しましょうよ。
テクノなんて贅沢は言いませんから、そうだな、80年代のポップ・ミュージックはどうですか。
今やリメンバー黄金の80年代ですからね、レーガノミクスの好景気よ再び、ということで。
さっきの映画でも流れてた 9 to 5 は、当時、スタートしたばかりのベストヒットUSAでよく聴いたもんです。
あの頃はテレビのスピーカーにラジカセのマイクをくっつけるようにして録音してたんですよ。
映画自体を観たのはかなり後になってからだけど、細かい内容までは記憶に残ってないですね。
ただ、ミュージカルになったのは知らなかったなあ、でも、楽しい映画だったっていう記憶はあるから納得です。
そう、映画「マグノリアの花たち」に出てた、あのドリー・バートンが歌ってるんですよ。
シーナ・イーストンの 9 to 5 はモーニング・トレインだから、あれは別曲ね。
歌詞は、確認してないけど、ざっとこんな感じだったかな。
♪ベッドから飛び起きて、シャワーでお目覚め
とっくにラッシュアワーで、みんな9時から5時まで働いてるわ
生きていくにはこれしかないし、やっとの暮らしなのよ
上司は私をこき使うことしか考えてないし、信用もしてないわ
働くだけ働いて、あいつの財布を膨らますなんて馬鹿みたい
もしかしたら、私を追い出そうって考えてるかもしれないのに
でも、みんなそうやってなんとか生きてるのよ
あなたはあなたの人生を歩めばいいわ
言いたい奴には言わせとけばいいのよ、9時から5時まで ♪
辛いことを笑い飛ばせるのが、本当の好景気ってもんでしょう。
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9 to 5 - "9 to 5 and Odd Jobs" Dolly Parton |
チャンネルがガムテープで固定してあって、悲しくなった。