February 28, 2013

濃霧

またか。

いつもの霧だ。
この辺りは水に由来する地名が多い。
だからなのか、よく霧が出る。

店を出て、駐車場を横切る。
霧なのか、息なのか、煙草なのか。
白いガスの濃淡が道の先を消す。

右足、左足、右足、左足。
歩いていると、いつのまにか頭が俯く。
そうだった、この時間帯は信号機が動いてるんだった。

怪訝そうな運転手。
歩道に足を戻し、立ち止まる。
排気ガスが白い尾を引く。

あまり考えるな、と考える。

2020 - "Yours Truly" Sol
歩いて、家に帰る。

February 26, 2013

祝花

おめでとうございます。

ダイレクトメールが頂けて嬉しかったです。
中国地方はちょっと無理ですが、一応、都内が決まったら連絡をください。
でも、本当に凄いなあ、これで何回目の写真展になるんでしょうか。

おっと、まずは乾杯、一杯奢らせてください。

"9-Step Pouring Ritual" Stella Artois, Beer in Belgium

先日、グラミー賞が発表になったでしょう。

最優秀レコード賞のゴティエはオーストラリア人なんですけど、ベルギー生れなのでこの銘柄を選んでみました。
さて、受賞理由となった彼の Somebody That I Used to Know は、三枚目のアルバムからカットされています。
その三枚目のアルバム「Making Mirrors」から、一曲。

写真ていうのは、よく見るようになると、それを見てるんじゃなくて、自分を見てるのかもしれませんね。

Dig Your Own Hole - "Making Mirrors" Gotye

ふと思ったんです。

今迄、乗り継ぎなしで一番長い鉄道の旅をしたのは何処だったのかな、って。
国内は、二十歳頃に東京から大阪まで。
国外は、出張で行ったインドで、ワーラーナシー(ベナレス)からデリーまで、だと思います。

そういうことで、インド映画を。

インド映画の内容は相変わらず、いい意味で無茶苦茶ですけど、本当に楽しいって感じがします。
ぼんやりした記憶ですが、アニメ映画「銀河鉄道999」を町内会館で見た小学生の時と同じです。
みんなでワイワイ言いながら観る、マナーや評論云々を吹き飛ばすパワーが、映画にも観客にもあると思う。

ただ流石に、ちょっと変わってきたかなと思う点もあります。
ここ数年、細身でスッキリした雰囲気の男性が、俳優として一般にもウケるようになった。
恰幅のいい、髭をはやした、杉良太郎を濃い口にしたみたいなタイプがスタンダードだったんですけどね。

シンハー監督の映画「ラ・ワン」のタイトルは、ラーマヤナ神話で悪魔となるスリランカ王、ラーヴァンに因みます。
サングラスが俳優のシャー・ルク・カーン、赤いサリーが女優のカリーナ・カプール。
シャンカール監督の映画「ロボット」以降、インド発のSFアクションは一気に注目を集めるようになりました。

ボリウッドの聖地ムンバイ、行っときゃよかったなあ。

omake
"Ra. One" Anubhav Sinha, Poster of  Tamil version
祝花としての鉄道特集、おそまつでした。

February 25, 2013

抵抗

なんなんだよ、あれは。

ガンダムにいつでも会えるのは、嬉しいさ、嬉しいよ、嬉しいって、しつこいな。
そんなこと謳うCMに、何度も、何度も何度も、何度も何度も何度も、強制的に会いたい奴がいるか。
シャアだったら、間違いなくネットであんな売り方はせん。

しばらく YouTube には行かん。

What You Want - "Out of the Black" Boys Noize

あなたのヒーローは、誰なんだ。

February 24, 2013

雨戸

朝から昼にかけて、部屋に陽があたる。

雨戸を閉めると、部屋は真っ暗になる。
枕元にある読書灯を最小の灯りに絞る。
寝る。

通学中の小学生たちの声。
幹線道路へ走り抜ける車の走行音。
風に叩かれた雨戸がガタガタ、ガタンと鳴る。

時折、滑走路への着陸進路を変更した飛行機の音。

"It's Not Over" Panama

いつもの、子守唄。

February 23, 2013

日誌

先日、こういうことがあった。

夜勤の人員は、基本的にパートが多く、社員が少ない。
更に、役職のある社員は1人か2人くらいしか配置せず、昼間のシフトから交代や臨時で配置する。
すると、夜勤の実態を知らない社員が夜間責任者になることがある。

いつも通り仕事をしていると、滅多に見ない顔の夜間責任者が聞いてきた。

 「チルド便、まだ到着しないのか」

いつも3時くらいに到着しますからね、まだですよ、と時計を確認して普通に答える。

 「間に合うのか」

はあ、いつも間に合せてますけど、と仕入台帳を確認して普通に答えると、夜間責任者の眉間に皺が寄った。

 「ちょっといいか、一服しよう」

誘われるままバックヤードの喫煙室へ。
なんだなんだ、なにか変なこと言ってしまったか、などと疑心暗鬼になって後をついて行く。
夜間責任者は社員割引の缶コーヒーを煽ると、溜息をつきながら聞いてきた。

 「いつもの仕事の流れを教えてくれ」

何曜日の夜なので、チルド便は何時頃に到着して、仕入量はこんな感じでやってます、と説明する。
夜のチルド便で届いた商品は、当日の午前8時までに補充を完了しなければならない。
それが心配だったらしい夜間責任者は、眉間から皺を消すと、あっさりこう言った。

 「すげえな、昼の倍以上だ」

仕入量を、補充する人数や時間で割り算すると、昼勤と比べて倍以上の仕事量になるらしい。
夜勤には夜間手当や早朝手当が付くが、給料は昼勤の数割増しくらいにしかならない。
喫煙室から先に出て、知らない方が良かったと思いながら店内へ戻る。

商品を補充する手の動きが、極端にのろくなった。

"Good Bye, Lenin!" Wolfgang Becker

先日、こういうことがあった。

スーパーの店員、という仕事。
ありふれた、どこにでもある、極々平々凡々な仕事だと思う。
だからなのか、人の出入りは激しい。

勤め始めてから、5人が辞め、3人が入ってきた。
正確には7人が入ってきたのだが、4人は直ぐに辞めた。
こちらも勤務歴が数ヶ月で新人教育係なんだから、教える方も教わる方も大概だ。

 「え、あの子も辞めたんだ、なんでさ」

社員以上に百戦錬磨のパートさんが、面白い話ならいくらでも、という感じで理由を聞いてくる。
タバコに火を点け、なんでもなにも、煙を吐き出しながら、こっちが理由を聞きたいくらいですよ。
すると、別のパートさんが、笑いながら言った。

 「厳しくやったんじゃないの、あんた怖そうだし」

失敬な。
厳しいなんてとんでもない、厳しくできない性格って言った方が正確なくらいですよ。
パッと見が怖そうな感じだからって、顔は変えられません。

ムッとして、ハッとして、なんとか口角を上げてみた。

"I Could Be The One" Avicii vs. Nicky Romero

先日、こういうことがあった。

在庫のダンボール箱を棚に積み上げている。
端末のアラームが鳴る。
退勤時間なので、帰る。

この時、まだ棚に積み上げていないダンボール箱がひとつだけ残っていたとする。
しかし、退勤時間を過ぎて残業の指示がない以上、積み上げる義務は一切ない。
目の前には、在庫のダンボール箱がひとつだけ床上に放置されていた。

誰なのかは知らないが、実際、そういう人はいる。
このダンボール箱はそんなに重くないんだし、ひとつだけ残すって、逆に気持ち悪くないのだろうか。
ただし、残業などに関係なく、最後のダンボール箱を積み上げた方がスッキリするという人は、苦労する。

どんな仕事でも、貴賎なしで頑張れるという人。
こんな仕事なら、軽くあしらって適当でいいという人。
そして、これしか仕事がなく、他に逃げ場がないという人。

苦労を苦労と思わない人。
苦労をしたくない人。
そして、苦労から逃げられない人。

来月、更に5人を追加採用することになった。
この報告を聞いて、愛想はいいんだが何度注意しても賞味期限を間違う新人くんは喜んだ。
俺にも後輩ができるんスね、ばっちりしごいてやるっスよ、と鼻息が荒い。

お前もな、とはこのことだ。

"The Dictator" Larry Charles

先日、こんなことがあった。

チクワにハンペン、ツミレなどをまとめた、おでんセットをそろそろ売り切らねばならない。
予め割引可能な範囲の了解をもらっていたので、思い切って3割引のシールを張る。
和日配と洋日配の補充を8時頃に完了して、事務室へ行く。

事務室には放送室がある。
放送室は大袈裟で、電話などの雑音を遮るようにパーテーションで仕切られた放送席があるのだ。
この席から、店内に向けてタイムセールや業務連絡などのアナウンスを流している。

鉄道の車掌さんと同じで、このアナウンスを担当する人は独特の言い回しができる。
まだ出勤していなかったので、おでんセットを3割引にしました、というメモを残そうとペンをとった。
すると、書類の山々に埋もれて、有線放送(USEN)が埃を被っているのを発見した。

チャンネルが表示されており、アンプに繋がっているから、驚いた。
店内に流れているBGMは、てっきり著作権フリーのCDでも回しっぱなしにしていると思っていたのだ。
それなら毎日毎日、ポール・モーリアから炭酸ガスを抜いたみたいなBGMばかり流すことないのに。

なんか、こう、店内が明るくなるような音楽を流しましょうよ。
テクノなんて贅沢は言いませんから、そうだな、80年代のポップ・ミュージックはどうですか。
今やリメンバー黄金の80年代ですからね、レーガノミクスの好景気よ再び、ということで。

さっきの映画でも流れてた 9 to 5 は、当時、スタートしたばかりのベストヒットUSAでよく聴いたもんです。
あの頃はテレビのスピーカーにラジカセのマイクをくっつけるようにして録音してたんですよ。
映画自体を観たのはかなり後になってからだけど、細かい内容までは記憶に残ってないですね。

ただ、ミュージカルになったのは知らなかったなあ、でも、楽しい映画だったっていう記憶はあるから納得です。
そう、映画「マグノリアの花たち」に出てた、あのドリー・バートンが歌ってるんですよ。
シーナ・イーストンの 9 to 5 はモーニング・トレインだから、あれは別曲ね。

歌詞は、確認してないけど、ざっとこんな感じだったかな。

 ♪ベッドから飛び起きて、シャワーでお目覚め
  とっくにラッシュアワーで、みんな9時から5時まで働いてるわ
  生きていくにはこれしかないし、やっとの暮らしなのよ

  上司は私をこき使うことしか考えてないし、信用もしてないわ
  働くだけ働いて、あいつの財布を膨らますなんて馬鹿みたい
  もしかしたら、私を追い出そうって考えてるかもしれないのに
 
  でも、みんなそうやってなんとか生きてるのよ
  あなたはあなたの人生を歩めばいいわ
  言いたい奴には言わせとけばいいのよ、9時から5時まで ♪

辛いことを笑い飛ばせるのが、本当の好景気ってもんでしょう。

9 to 5 - "9 to 5 and Odd Jobs" Dolly Parton

チャンネルがガムテープで固定してあって、悲しくなった。

February 18, 2013

葉書

某月某日。

今頃になって、やっと葉書を読みました。
年末年始に東京の方へ届いた個人宛の手紙を、まとめて千葉の方へ送ってもらったからです。
年賀葉書を送ってくれた人、喪中葉書を送ってくれた人、ありがとう。

本当に、ありがとう。

Annie Miller - Dante Gabriel Rossetti, Dmitry Rozhkov Collection, Sweden

某月某日。

親父が遺した美術関連の本が結構あるので、それを適当に読む。
昔は読んでいると、頁の間から描きかけのデッサンや模写の紙きれが出てくるようなことがあった。
飽きたので、図書館へ行く。

結局タバコだけ買って帰り、靴を脱ぎながら、やっぱり何か借りてくればよかったと後悔した。

Elizabeth Siddall - Dante Gabriel Rossetti, National Gallery of Art, Washington, USA

某月某日。

最近、イギリスのラファエル前派が凄くいいなと思って眺めることが多い。
中学の美術部で説明された時はチンプンカンプンで、なんだか湿った絵を描く連中だ、くらいにしか感じなかった。
特にダンテについては、完成品よりも修作のためのドローイングの方がいいと思った。

彼のドローイングでいいなと思ったのは、アレクサ・ワイルディングやファニー・コンフォース、アニー・ミラー。
ところが、そういうモデルたちに限って、ダンテはあまりドローイングを遺していない。
当時、不思議に感じたことを記憶している。

理由が解るようになったのは、それなりに、大人になってからである。

Jane Morris - Dante Gabriel Rossetti, Art Gallery of South Australia

某月某日。

どれもイギリスの古い民謡だから、口頭の伝承によって変化した歌詞も多いのだろう。
Auld Lang Syne は、映画「素晴らしき哉、人生」の終幕でも歌われている。
お伽話のように単純なのだが、考えると、そういう単純なお伽噺を信じなくなって何かいいことがあっただろうか。

こうやって聴くと、終わりではなく、始まりの歌だったんだ。

"It's a Wonderful Life" Frank Capra
皆に、ベルが鳴りますように。

February 10, 2013

無知

以前にも書いたが、主に和洋の日配(にっぱい)を担当している。

和日配は、豆腐や納豆、蒲鉾や蒟蒻、ソバやウドン、梅干しや漬物など。
洋日配は、牛乳やヨーグルト、バターやチーズ、ゼリーやプリン、コーヒーやジュースなど。
食卓の基本となる食品が中心なので、日々満遍なく仕入れ、日々満遍なく売れる。

ちなみに、常温で保存が可能な、賞味期限の長い食品は別の担当になる。
同じ麺類でも乾麺ならインスタント系の担当、同じジュースでも缶なら飲料系の担当といった具合だ。
ただ、そうやって別の担当だと言いきれる食品ばかりではなく、相互に連携するような食品も多い。

これが、ややこしい。

Lemon Grenade ≒ Lemonade - Minute Maid

そして、主に平日の夜勤を担当している。

日配は休日よりも平日が重要で、特に金曜日と月曜日が忙しい。
金曜日は土日に向けて大量に仕入れなければならず、月曜日は不足分の仕入れに追われるからだ。
金曜日の深夜は山積みに、月曜日の早朝は売り切れがないように補充して、24時間営業が可能になっている。

今回は祝日があるので三連休を想定し、休み明けのバレンタイン・デーも考慮に入れている。

当然、製菓や菓子の担当者が殺気立つ。
そんな彼らを横目にヤクルトを台車で運んでいると、エプロンのポケットに入れていた端末が鳴った。
猫の手も借りたい菓子担当者からのメールで、件名に「発注確認」とある。

なんで菓子が日配に、などと思いながらメールを開いた。

&
Spray More, Get More - Lynx

仮に、2階にある衣料品の担当だったら、言われなくても特設コーナーを作ると思う。

男女の関わるイベントだから、チョコと一緒に男物のハンカチやネクタイなども如何ですか。
実際、化粧品のコーナーなどにも、風が吹けば桶屋が儲かる的なポップが飾られている。
それは兎も角、メールを読了して冷や汗が出た。

生チョコを手作りする時、生クリームが必須なんだそうだ。

コーヒー用のポーションや紙パックのクリームスープなんかが並べてある辺りが頭に浮かぶ。
確かに、そこに生クリームがある。
思いきり洋日配じゃんか。

発注の数量は通常の3倍どころではなく、150倍。
慌ててメーカーに発注して確保できたが、まだ倉庫や売り場のスペースを確保していない。
単品でも特売になるだろうし、溶かし用の板チョコと組み合わせた特価も考えなければならない。

ぜんぜん知りませんでした、つーの。

Made you look. - Specsavers

男子厨房に入るべからず。

そこまで古風な家庭ではなかった。
お袋が女の子を欲しがっていたこともあって、台所に立たされる機会は多かった。
一方で、親父はあんまり男が包丁を握るもんではない、という人だった。

結果として、料理は御飯に味噌汁、卵焼き、といった最低限のものを作る知識しかない。

先の生クリームは、なんとか無事に間に合った。
ただ、この件を機会に、レシピに注意するようになった。
料理本にあるような凝ったレシピではなく、商品パッケージに書いてあるような簡単なレシピである。

簡単ということは最低限の材料であって、それを知らないのはスーパーの店員として不味い。
バレンタインの後は雛祭りとなるが、だとしたら甘酒を飲むことになるだろう。
甘酒を手作りするなら酒粕、酒粕はオカラや粕漬けの辺りにあるから、和日配の担当だ。

甘酒くらいなら、久しぶりに自分で作ってみようかな。

Bien chez soi, bien moins cher. - Conforama

何事も、見よう見まねがスタートです。

February 9, 2013

図書

この町には、本屋がない。

探してる本があるわけじゃない。
でも、本屋に立ち寄って、選んで、買って、読む、ってことがしたい。
ただそれだけのことが、したい。

それは、とても贅沢な時間だ。

"Il Nome della Rosa" (it) Umberto Eco
つい先日まで、知らなかった。

この町には、なんと、図書館があったのだ。
地元ではそれなりに有名な代議士が役所に働きかけ、数年前に建ったのだそうだ。
二階の窓から線路の向こう側にちらっと見える、あの屋根って図書館だったのか。

よし、行ってみよう。

&
"Ghostbusters" Ivan Reitman, Ver. Revival-Screenings
休日になり、行ってみた。

図書館の外観はとても綺麗で、まったく周囲に溶け込んでいない。
道路に面した正門から建物の入口まで結構な距離があり、全て駐輪場になっているが、一台も停まっていない。
誠に結構、お役所仕事とはこういうものだ。

嘘みたいな話だが、この辺りでは珍しい存在の自動ドアが、音もなく開いた。

"Breakfast at Tiffany's" Blake Edwards
凄い、広い。

天井の高い壁面は全面ガラスで、とても明るい。
書架と書架の間、通路の幅に余裕がある。
それでいて、蔵書量は意外にありそうだ。

さっと見渡して、利用者がたったの三名様くらいというのも最高だ。

"Angels & Demons" Ron Howard
貸出カードを作りたいんですが。

受付に誰もいなくて、辺りを見回す。
すると、利用客だと思っていた一人の女性は、司書さんだった。
彼女は慌てる様子もなく受付に戻ってくると、申込書を手にしながら身分証はあるかと尋ねてきた。

ああ、この町の住人なんですが、住民票がないから住人ではないような、ええ、すみません。

"Harry Potter & the Half-Blood Prince" J. K. Rowling

貸出カードを手に、書架の間を一通り歩いてみる。

それにしても、本当に静かだ。
利用者が少なすぎて、ほとんど声が聞こえない。
こんなに立派な図書館なんだから、もっと騒々しくていい。

その方が、天使たちだって寂しくないはずだ。

"Der Himmel über Berlin" Wim Wenders

さて、ダニエル、何を借りようか。

February 6, 2013

雨夜

午前零時を過ぎて、家を出た。

夜勤だから、夜道を歩く。
この辺りはベッドタウンといっても蛇や狸が出るような土地柄で、街灯はない。
真っ暗な森の、真っ暗な道を、数十分かけて抜ける。

時折、足が滑って初めて、ああ路側帯の外側へはみ出して歩いていたのかと気付く。
泥水のぬかるみの感覚を足先で振り払いながら、再び路側帯の内側へ戻って歩く。
そのくらい真っ暗な中でしばらくすると、赤信号の灯りだけがぼんやりと浮かんでくる。

車はまったく走っておらず、とても国道とは思えない。
赤信号の周りの木々は真っ赤に染まり、枝葉の合間は真っ黒な闇に沈んでいる。
すると、水飛沫を立てて一台の車が走ってきて、スピードを緩め、停まった。

こんな雨の夜に、ドライブか。

"The Hitcher" Robert Harmon

それなりに早足で、行きに30分、帰りに30分、無精だから歩くのは健康にいいかな、と。

まあ、こんなふうにタバコをふかしながら言えることじゃないですけどね。
田舎なのは事実だし、仕事があっただけ有り難いと思って通わせてもらってます。
ええ、正直、雇ってもらって命拾いってやつですね。

そうだな、なんていうか、燃えるっていうんですか、そういう感覚を仕事に求めなくなったのは少し悲しいですけど。
確かに給料は安いと思ってますよ、安いけれど、まず安定することが優先と思ってますから。
未練や誘惑がまったくないかと言えば、それは嘘になりますね。

それに、この歳になると、未練や誘惑っていうのは体にも心にも毒です。
毒を食らわば皿までって言うけれど、その皿が割れてるんじゃあ仕方ないです。
でもね、今すぐ皿がくっつくならって、悪魔と契約を交わす奴の気持ちだけはよく解りますよ。

卵ひとつでいい、つまり、命ひとつでいいから、なんとか皿に載せようってね。

"Angel Heart" Alan Parker

目が覚めた。

変な夢にかぎってよく思い出せないなあ。
雨音を聞いて、夜勤なのにって溜息が出たよ。
とにかく起き上がって、顔を洗わなきゃ。

起きがけの歯磨きは、いつもおかしな嗚咽が出るんだ。
アニー。
早く着替えろって、さっきから時計の針が煩い。

あれ、今さっき、鏡に向かって何か喋ったような気がする。

午前零時を過ぎて、家を出た。

February 2, 2013

管理

この数年間、いくつかの職業を転々としてきた。

今の職場は、出勤すると最初に一人一台で割り当てられた携帯端末を起動する。
中身は iPhone で、サードパーティのバーコード・スキャナーなどを装着している。
これに自社開発のソフトが入れてあり、商品の管理と同時に、社員の管理もできるようになっている。

商品にかざせば、品名、価格、販売、在庫、発注といった状況が解る。
社員証にかざせば、仕事の進捗状況が解る。
これらは遥か遠方にある本部で一括管理されている。

この端末から、何時何分にあれをやれ、何時何分にこれをやれ、といった指示がどんどん出る。
計画と実際は別物だといった云々は百も承知で、この時間がズレるとマネージャーがすぐにやってくる。
マネージャーは文字通りマネージメントする人だから、このズレを調査したり修正するのが専門だ。

どんな仕事でも、時間の管理は難しい。

ここ数年間の職場で、就業時間に最も厳しいのは保険会社だった。
出勤時間は当然として、派遣だったこともあるが、とにかく退勤時間には煩かった。
退勤時間の前の30分間は退勤準備のための時間という感覚で、残業になると5分毎の計算だった。

今の職場は、店内でお客様に声を掛けられたりすれば、やはり仕事の時間は狂っていく。
お客様に向かってこっちは忙しいんだよ、という表情が出るなら、その社員の人格か管理体制に問題がある。
これを見極めるのはマネージャーの重要な仕事だ。

果たして原因は、人員の能力不足か、計画として無理だったのか、それとも単にサボっていただけか。

"The Future of Driving" Dodge Charger

先日、トロイの木馬に感染した。

警告レベルは重篤。
今すぐにでもシャットダウンして、LANケーブルを抜かなければ安全性の保証は一切ない、とのこと。
甘く考えていた訳ではないが、ウイルス対策ソフトの更新をさぼっていた。

潜伏場所は一度も使ったことのないソフトウェアの中。
更新後、スキャンだリカバリディスクの作成だ、もう面倒臭いことこの上ない。
それが嫌ならパソコンを捨てた方がいいというのも理解できるから仕方がない。

どうしても知りたい情報になると、英語のページを読まざるを得ないことがある。
それが音楽だったり映画だったり、趣味の範囲なら構わない。
ウイルス関連でマイクロソフトのページへ行くと、肝心要の部分が英語でしか書かれていない。

例えば今、ウィキペディアの全言語版の統計で総記事数を見ると、順位と件数は下記の通りだ。

 1位 英語版 4,133,266件
 2位 独語版 1,528,238件
 3位 仏語版 1,335,206件

日本語版は9位で、件数は一桁下がる。
だから英語がいいとはまったく思わない。
しかし、世界の情報がそういう環境下にあることは事実だ。

いっそのこと鎖国した方がもっと風変りで面白くなるかもしれない、とも思う。

"True Skin" Stephan Zlotescu & H1

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