夜勤だから、夜道を歩く。
この辺りはベッドタウンといっても蛇や狸が出るような土地柄で、街灯はない。
真っ暗な森の、真っ暗な道を、数十分かけて抜ける。
時折、足が滑って初めて、ああ路側帯の外側へはみ出して歩いていたのかと気付く。
泥水のぬかるみの感覚を足先で振り払いながら、再び路側帯の内側へ戻って歩く。
そのくらい真っ暗な中でしばらくすると、赤信号の灯りだけがぼんやりと浮かんでくる。
車はまったく走っておらず、とても国道とは思えない。
赤信号の周りの木々は真っ赤に染まり、枝葉の合間は真っ黒な闇に沈んでいる。
すると、水飛沫を立てて一台の車が走ってきて、スピードを緩め、停まった。
こんな雨の夜に、ドライブか。
"The Hitcher" Robert Harmon |
それなりに早足で、行きに30分、帰りに30分、無精だから歩くのは健康にいいかな、と。
まあ、こんなふうにタバコをふかしながら言えることじゃないですけどね。
田舎なのは事実だし、仕事があっただけ有り難いと思って通わせてもらってます。
ええ、正直、雇ってもらって命拾いってやつですね。
そうだな、なんていうか、燃えるっていうんですか、そういう感覚を仕事に求めなくなったのは少し悲しいですけど。
確かに給料は安いと思ってますよ、安いけれど、まず安定することが優先と思ってますから。
未練や誘惑がまったくないかと言えば、それは嘘になりますね。
それに、この歳になると、未練や誘惑っていうのは体にも心にも毒です。
毒を食らわば皿までって言うけれど、その皿が割れてるんじゃあ仕方ないです。
でもね、今すぐ皿がくっつくならって、悪魔と契約を交わす奴の気持ちだけはよく解りますよ。
卵ひとつでいい、つまり、命ひとつでいいから、なんとか皿に載せようってね。
それに、この歳になると、未練や誘惑っていうのは体にも心にも毒です。
毒を食らわば皿までって言うけれど、その皿が割れてるんじゃあ仕方ないです。
でもね、今すぐ皿がくっつくならって、悪魔と契約を交わす奴の気持ちだけはよく解りますよ。
卵ひとつでいい、つまり、命ひとつでいいから、なんとか皿に載せようってね。
"Angel Heart" Alan Parker |
目が覚めた。
変な夢にかぎってよく思い出せないなあ。
雨音を聞いて、夜勤なのにって溜息が出たよ。
とにかく起き上がって、顔を洗わなきゃ。
起きがけの歯磨きは、いつもおかしな嗚咽が出るんだ。
アニー。
早く着替えろって、さっきから時計の針が煩い。
あれ、今さっき、鏡に向かって何か喋ったような気がする。
Ending Sequence - "Twin Peaks" TV-S1, David Lynch & Mark Frost, Sp : David Lynch, St : Angelo Badalamenti
午前零時を過ぎて、家を出た。
"Twin Peaks" TV - Season 1, David Lynch & Mark Frost |