But I know none, and therefore am no beast.
どんな獣であろうとも僅かな慈悲があろうに。
それすら知らぬ私は、獣ですらない。
映画「暴走機関車」(英題:Runaway Train)は1985年に公開され、日本では版権問題から劇場未公開となった。
冒頭の言葉は史劇「リチャード三世」の台詞の一部分で、この映画の終幕に挿入されている。
高校時代、手塚治虫の「七色いんこ」をアレンジしていた演劇部の連中から薦められて読み、記憶に残っていた。
未亡人アンが「獣め」と激しく貶すと、グロスター(リチャード三世)は「だからこそ人間なのだ」と切り返す。
この終幕の場面では、この映画のためにアレンジされたビヴァルディの「地上には善意の人々」が流れていた。
"Runaway Train" Andrei Konchalovsky The Cannon Group, Inc. |
この映画は、最初に日本の映画監督である黒澤明が1960年代に脚本として書き下ろしたものである。
ところが、当時の屋台骨だった東映はもちろん、他の映画会社も制作費や物語の粗筋に二の足を踏んでしまう。
そこうしているうちに脚本だけが海外に出回り、「黒澤の脚本が宙に浮いてる」ことが知られるようになった。
最終的にイギリスのキャノン・フィルムズが製作配給を担当、ソ連のアンドレイ・コンチャロフスキーが監督を務めた。
日本原産の洋画として稀な、本当に骨太な傑作のひとつであると思う。
Andrei Konchalovsky on the set of jail. "Runaway Train" Andrei Konchalovsky The Cannon Group, Inc. |
舞台は、極寒のアラスカ。
刑務所から脱獄した二人の囚人は、密かにアラスカ鉄道の貨物列車に乗り込むことに成功する。
安堵したのも束の間、切替ポイントで他の列車と衝突したにも関わらず貨物列車は一向に止まる気配がない。
二人の囚人は初めて、自分たちの乗っている貨物列車が異常な状態に陥っていることに気付くのだった。
オスカー・マンハイム (Oscar Manheim)
主人公、通称マニー(Manny)、有名な銀行強盗、筋を通さないことが嫌いで囚人たちの間で人望がある。
「内容問わずギャラ問わず」のジョン・ボイトが「歪んだ顔面」を演じるため、実際に整形してまで挑んだ。
Jon Voight as Oscar "Manny" Manheim "Runaway Train" Andrei Konchalovsky The Cannon Group, Inc. |
主人公マニーのような「大悪党」に憧れる洗濯係の囚人、負けん気は強いがいざとなると弱音を吐くことも多い。
当時はまだ「変わり者」ではなく「美青年」で知られたジュリア・ロバーツの実兄、エリック・ロバーツが演じた。
Eric Roberts as Buck McGeehy "Runaway Train" Andrei Konchalovsky The Cannon Group, Inc. |
貨物列車に偶然乗り合わせていた女性機関士助手で、マニーの非情な暴君ぶりからバックを庇うようになる。
映画「ゆりかごを揺らす手」のメンヘラっぷりが怖すぎたレベッカ・デモーネイが「すっぴん」で熱演している。
Rebecca De Mornay as Sara "Runaway Train" Andrei Konchalovsky The Cannon Group, Inc. |
アラスカ鉄道司令室の技師たちで、列車運行と人命救助の間でぎりぎりの判断を迫られる。
フランクをカイル・T・ヘフナー、デイブをT.K(トーマス・ケント)・カーターが演じた。
Kyle T. Heffner as Frank Barstow, T. K. Carter as Dave Prince "Runaway Train" Andrei Konchalovsky The Cannon Group, Inc. |
目障りな囚人を買収した囚人に暗殺するよう仕向けるなど、極悪な「法の番人」として君臨する刑務所の所長。
マニーとバックを「獲物」として執拗に追う姿は、ボイトに負けない鬼気迫る怪演である。
John P. Ryan as Warden Ranken "Runaway Train" Andrei Konchalovsky The Cannon Group, Inc. |
まだ若いバックは、脱獄後にデカい山を当ててラスベガスで豪遊するのが夢だという。
実は終幕以外で、ビヴァルディの「地上には善意の人々」が流れる場面がもう一箇所ある。
昔はその場面が一番強く印象に残ったものだが、今にして思えばこちらも正に若気の至りだった。
以下、動画の1分15秒あたりから、ラスベガスで豪遊するというバックの夢を聞いた、マニーの台詞である。
Manny : Dreaming?
マニー : 夢?
Buck : Yeah.
バック : まあね。
Manny : Dreaming ... That's bullshit.
You're not gonna do nothing like that.
I'll tell you what you're gonna do!
You're gonna get a job!
That's what you're gonna do, You're gonna get a little job, some job a convict can get,
Iike scraping off trays at a cafeteria or cleaning out toilets!
And you're gonna hold on to that job like gold, because it is gold!
Let me tell you, Jack.
That is gold!
You listening to me!
And when that man walks in at the end of the day, and he comes to see how you done!
You ain't gonna look in his eyes, You're gonna look at the floor!
Because you don't wanna see that fear in his eyes,
when you jump up and grab his face and slam him to the floor,
and make him scream and cry for his life!
So you look right at the floor, Jack!
Pay attention to this, motherfucker!
And then he's gonna look around the room, see how you done.
And he's gonna say,
" Oh, you missed a little spot over there.
Jeez, you didn't get this one here.
What about this little bitty spot? "
And you're gonna suck all that pain inside you ... and you're gonna clean that spot!
And you're gonna clean that spot ... until you get that shining clean!
And on Friday, you'll pick up your paycheck!
And if you could do that ... if you could be president of Chase Manhattan, corporations!
If you could do that!
マニー : 夢か ・・・ くだらねえ。
そんなのは何にもならねえ。
お前が何をすべきか教えてやる!
お前は仕事に就くんだ!
お前にできる何か、下らねえ仕事さ、前科者にもできる仕事、食器洗いや便所掃除!
お前にはそれしかない、それしかないからさ!
お前に教えてやるぞ、若造。
それしかないんだ!
聞いてんのか!
そして一日の終わりに主人がやってきて、お前の働きぶりを見るんだ!
お前は目を合わせようとしない、お前は床を見てやがる!
なぜならお前は認めたくないんだ、もしかしたらお前に殴り倒され泣き叫ぶかもしれない、
そんなふうに内心では前科者を疑ってる野郎の目を見たくないんだ!
だから床を見てんのさ、お前は!
用心しやがれ、こん畜生!
そして主人は部屋を見回すんだ、お前は気が気じゃねえ。
主人はこう言いやがる、
「おや、こんなところに小さなシミがある。
おいおい、これはどうしたんだ。
ここにもまだ細かい汚れがあるじゃないか?」
そしてお前は言いたいことも我慢して、黙ってシミを拭くんだ!
シミを拭くのさ、ピカピカに綺麗になるまで!
そうすりゃ金曜日に、お前は給料をもらえる!
お前にそれができるなら、チェース・マンハッタンの頭取にだって社長にだってなれる!
お前にそれができるならな!
Buck : Not me, man!
I wouldn't do that kind of shit!
I'd rather be fucking in jail.
バック : くだらねえ!
そんなクソみてえなことができるかよ!
クソみてえな刑務所の方がまだマシだ。
Manny : ... More's the pity, youngster.
More the pity.
マニー : ・・・残念だな、若造。
残念だよ。
Buck : Could you do that kind of shit!
バック : あんたはそんなクソみてえなことがやりたいのかよ!
Manny : I wish, I could ...
マニー : できるなら、やりたいよ・・・
Buck : ......
バック : ・・・・・・
Manny : ... I wish, I could.
マニー : ・・・できるならな、やりたいさ。
Alaska Railroad's four EMD locomotives.
"Runaway Train" Andrei Konchalovsky
The Cannon Group, Inc.
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一番よく理解している者。
最も後悔している者。
だからこそ憤ってしまう者。
それは、自分自身なのだろう。