November 25, 2018

専門

物凄くアメリカっぽいなあと思う仕事に、モチベーショナル・スピーカーという職業がある。

教会の説教師を現代版に焼き直した、会社の組織活性化や生産性向上について講演する一種のコンサルタント業である。
詐欺師まがいから芸能人以上の人気者まで様々だが、彼らは1対1ではなく必ず大勢の人々を前に講演する。
集団心理の分析能力に長けており、数十分のスピーチだけで人々を元気にしてしまうというから凄いものだ。

・・・という話は本題ではない。

YouTubeが始まった最初期の頃に、ジェドソン・ライプリーさんというオジサンが有名になった。
謂わば最初期のユーチューバー、彼が2006年に投稿した「ダンスの進化」という動画が大変な話題になったのである。
EDMを含めたダンス界隈では有名な動画のひとつで、再生回数は2015年に3億回を突破して更に伸び続けている。

このオジサンがモチベーショナル・スピーカーの専門家だと知った時、なんとなく合点がいったのだ。

Good Morning America
ABC News

まずは笑顔から、ということで講演の最後にこのダンスを披露していたことがきっかけらしい。

現在はこのダンスで有名になったものだから、オジサンだがオジサンなりにダンスが上手い人になってしまった。
兎も角、2006年の動画で見れるダンスはダンスとしては決して上手くないが、特徴を掴むセンスは本当に凄まじい。
実際はあんな動きはしていないダンスも結構あるのに、「そうそう、そうだよ」と納得させられるダンスになっている。

こういうのは、前述した彼のモチベーショナル・スピーカーとしての才能も関わっているように思う。

この曲は...懐かしくて泣けてくる
"Blue (Da Ba Dee)" Eiffel 65
Bliss Corporation s.r.l.

中三になる甥が絵やゲームに興味を持ち、今、音楽に、特にEDM系に夢中になっている。

自分とまったく違うのは、自宅やゲーセンを含めて踊りまくることである。
甥によると、セガのmaimaiはプロ級(自称)、DDRはeスポーツに出場できる級(自称)だそうだ。
夢を持ち、夢中になること自体はいいことだ、勉強もして欲しいが、彼の調べ物の手伝いをして驚いた。

ダンスの踊り方ひとつひとつにも、何百という「名前」があるのだ。

ちょっとした動きの違い、手の向きや足の運び、ムーンウォークだけでも何十種類とある。
素人の自分は実際に見せられても違いがまったく判らない、三回転半と三回転半ひねりなどは同じに見える。
以前、映画「トロン・レガシー」のメイキングを見た時にも似たようなことで驚いたのを思い出した。

ジェムたちの演技、あれは、撮影現場ではクラシック・バレエを応用した振り付けだったのだ。

"Free Yourself" The Chemical Brothers
Outsider / Virgin EMI Records

振付師の「アン、ドゥ、トロワ!」という手拍子に従って演技するジェムたちに驚いた時と同じだ。

専門と名乗るからには、やはり本当に専門家なのだ。
好きでなければならないし、才能もなければならないし、運もなければならないし、食べていかなければならない。
あらゆる「なければならない」に束縛されながら、それを乗り越えた者だけが、専門家なのだ。

そうあって欲しいと思う。