December 30, 2013

仄聞

昔々、南米のある町で、小さな男の子が近所の女の子に求婚しました。

君と結婚したら、赤い屋根の家に住むんだ。
もし、私が断ったら?
僕は司祭になるよ。

実際には手紙のやりとりで、その手紙はけしからんと怒った親によって破り捨てられたそうです。
男の子は現ローマ教皇フランシスコ(ホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿)、女の子はアマリア・ダモンテさん。
バチカンは「幼い頃の他愛ない、純真な思い出」とコメントしたとかしないとか。


つまり、タンゴ(ペア)叶わずフラメンコ(ソロ)であった、と。

"Vengo : Soundtrack" Tony Gatlif

今年一番いいな、と思ったエピソードでした。

December 25, 2013

降誕

世界中の子供たちが、幸せでありますように。

Happy Xmas (War Is Over) - John & Yoko
Plastic Ono Band
with the Harlem Community Choir

Merry Christmas!

December 17, 2013

補正

珍しく、連続更新。

Google が凄すぎるんだよ。
凄すぎて、困るくらいだ。
Blogger にアップする画像は Picasa 側でまとめて管理されてる。

やたら Google+ を勧めてきた辺りから、なんか変だなあと思ってたんだ。

今回、前の記事「応援」をアップしてる最中に、とうとう諦めたよ。
いくらなんでも、ブリトニーのアルバムはこんな色じゃない。
いつの間にか自動的に、どこかで勝手に、画像補正がデフォルトになってたんだろう。

素晴らしいような、素晴らしくないような、面倒だけど調べて直すしかない。

Before & After
Adjust or remove Auto Enhance for a photo.

や、やっと直った。

画像補正は左がON、右がOFFで、右のOFFがオリジナル。
素晴らしい技術だとは思うけどね、助かる人は助かるだろうし。
ちょっと前まで単なるブログだったのに、いろいろ勝手にやってくれるブログになったんだから。

偶然だけど、オート・チューンの話を書いた後にこうなるとは思わなかったよ。

オリジナルだと思ってたものが、オリジナルじゃないってことがどんどん増えていくんだろうな。
そのうち、文章も勝手に書いてくれてさ、案外そっちの方が名文てことになったりして。
適当に検索して拾ってきた文章を自動的に繋げるブログもあるから、そこから名言が生まれたりね。

実際、オート・チューンの補正機能を逆手にとったヒット曲も増えてきてるもんな。

&
A Glorious Dawn & Ode to the Brain - "Symphony of Science : Collector's Edition" Melodysheep

ホント、おじさん達には辛い時代です。

December 16, 2013

応援

それでは、本日の審査員を左から順にご紹介します。

L.A. Reid
L.A.(エルエー)・リード。
現在のヒットチャートは彼の匙加減で決まると言われる程の大物プロデューサー、作詞家。エピック・レコード代表。

Demi Lovato
デミ・ロバート(ロヴァート)。
女優として活躍後に歌手デビュー。ビルボードで1stアルバムが2位、2ndアルバムが初登場1位の大ヒットを記録。

Britney Spears
ブリトニー・スピアーズ。
ライブなのに10曲中1曲でも生歌が聴ければ恩の字、最早、本人が歌ってるのかどうかさえ疑わしい超人気歌手。

Simon Cowell
サイモン・コーウェル。
米国ソニー・ミュージック・エンタテインメントの音楽プロデューサー。手厳しい評価で人気者になった名物審査員。

The X Factor USA season 2 auditions  was taken in Austin, Texas on May 21, 2012.
That happening was broadcast on September 12, 2012.
Photo : FOX, Ray Mickshaw

Staff  :  Shawn Armenta, The judges are ready for you.
スタッフ  :  ショーン・アルメンタさん、あなたの審査が整いましたよ。

[BGM]   ニッキー・ミナージュ  「宇宙船」
Starships - "Pink Friday: Roman Reloaded" Nicki Minaj

Shawn  :  Hi, I'm Shawn Armenta from Phoenix, Arizona.
ショーン  :  やあ、アリゾナ州フェニックスから来た、ショーン・アルメンタです。

               I'm 50 years old, I work for an airline, and I'm a wrapper and I load bags.
               50歳、航空会社で働いていて、荷物をまとめて積み込む係なんだ。

               I have prepared 6 hours a night, from 6:00 to 10:00 P.M., every day after work
               夜に6時間くらい、午後6時から10時とか、毎日の仕事が終わってから、

               for 7 days a week for 1 year and 6 months for this.
               週7日間、1年6ヶ月、このために準備してきたんだよ。

               This is my passion.
               情熱って奴だね。

               I'm a singer and a dancer, and I just want to get out there and start singing and dancing.
       俺はシンガーでダンサーなんだから、歌や踊りを是非披露したいよ。

Judges  :  < small talk >
審査員  :  < 雑談中 >

               You seem much more comfortable now.
               今の方がずっとよく見えるよ。

       Well, Thank you.
       ええ、ありがとう。

       It's been fun.  < Maybe, I heard such >
       面白かった。  < 多分、そう聞こえる >

                I was a little nervous at first.  < Maybe, I heard such >
               最初ちょっと緊張したけど。  < 多分、そう聞こえる >

               You're very good at this.
               良かったよ。

       Thank you.
       ありがとう。

Staff  :  There you go.
スタッフ  :  出番だ。

Simon  :  No screams.  < to Britney >
サイモン  :  大人しくね。  < ブリトニーに >

               Hello.  < to Shawn >
               こんにちは。  < ショーンに >

Shawn  :  Hello, Simon.
ショーン  :  こんにちは、サイモン。

Simon  :  Hi, What's your name?
サイモン  :  やあ、お名前は?

Shawn  :  Uh, Shawn Armenta.
ショーン  :  あーと、ショーン・アルメンタ。

Simon  :  Okay. how old are you, Shawn?
サイモン  :  オーケー。何歳かな、ショーン?

Shawn  :  Uh, I turned 50.
ショーン  :  えーと、50になったよ。

Simon  :  Okay, and how much work have you put into preparing for this?
サイモン  :  オーケー、じゃあ、今回のためにどんな準備をしてきたのかな?

Shawn  :  Um, 1 year and 6 months in a studio from 6:00 to 10:00 P.M.,
ショーン  :  うーんと、1年6ヶ月、スタジオで午後6時から10時まで、

               every night, dancing with a choreographer, Vocal training for 7 days a week...
               毎晩、振付やダンス、週7日はボーカル・トレーニングで...

Simon  :  Wow !
サイモン  :  へえ!

Shawn  :  So I can be prepared for this.
ショーン  :  だから、覚悟はできてるよ。

Simon  :  Okay, and what song are you gonna do?
サイモン  :  オーケー、じゃ、何の曲をやってくれるのかな?

Shawn  :  My own song called "Candy Girl", about the girls,
ショーン  :  自作の歌で「キャンディー・ガール」っていって、その女の子は、

               that you might meet in your local bar or anywhere else that are really good looking,
               地元のバーや他所の場所でも出会いそうな、本当に美人でさ、

               then they're your sweet candy girls.
        皆にとっての甘いキャンディー・ガールなんだ。

               It's like, like, "whoo-hoo!".
       そりゃもう、もう、「ヒューヒュー!」

               You know?
               解るだろ?

Simon  :  Okay.
サイモン  :  オーケー。

Shawn  :  Hope you like this one.
ショーン  :  気に入ってくれることを願うよ。

[歌]   ショーン・アルメンタ  「飴玉娘」
Shawn Armenta performs "Candy Girl" on stage.
Photo : FOX
All persons  :  ...
一同  :  ...

Shawn  :  Thank you, Austin. < This auditions was taken in Austin, Texas >
ショーン  :  ありがとう、オースティン。 < このオーディションはテキサス州オースティンで収録されている >

Simon  :  Shawn, I'm gonna be ... because you put out a lot of effort into this.
サイモン  :  ショーン、君はこれに多くの労力を注ぎ込んできた ... だろうけどね。

               But you're like a mouse trying to be an elephant.
               だけど、君はまるでゾウになりたいネズミのようだ。

Shawn  :  Why, 'cause a 50 year old's doing it, and ...
ショーン  :  なんでだよ、50歳にもなってやってるからか、それとも ...

Simon  :  It's got nothing to do with your age.
サイモン  :  君の年齢は何の関係もないよ。

               Well, maybe it has, but ... yeah, it does.
               まあ、それも関係あるか、いや ... そうだな、関係ない。

Shawn  :  I know the industry.
ショーン  :  俺はこの業界を知ってるんだ。

Simon  :  It's just, it's just ... It's just wrong.
サイモン  :  それは、そりゃあ全く ... 全く違うだろうさ。

Shawn  :  I worked way too friggin' hard for this, and I'm a really ... I'm not a bad singer.
ショーン  :  俺はこのためにクソ真面目に頑張ってきた、それで俺は実際 ... 駄目な歌手じゃない。

               I know I'm not,
               そうじゃないって知ってるんだ、

               because I've been writing these songs for too long and too many people copying me ...
               なぜって、長い間やってきたし、他の奴らだってどんどん俺の真似を ...

Demi  :  A lot of people work really, really hard for their dreams.
デミ    :  大勢の人が本当に、夢のために本当に努力してるわ。

            But it's not meant for everybody.
            でも、それを皆が叶える訳ではないのよ。

Shawn  :  That's why you use Auto-Tune, and I don't.
ショーン  :  そりゃ、あんたはオート・チューン(自動音程補正装置)を使うだろうが、俺は使わないからな。

Demi  :  Actually ...
デミ  :  そんなことは ...

L.A.  :  Oh ! Hold it, hold it, hold it, hold it !
L.A.  :  おーっと! 待て待て待て、待てよ!

Britney  :  I want to know who let you onstage.
ブリトニー  :  誰があんたをステージに立たせたのか知りたいわ。
        I feel uncomfortable with you even staring at me.
               あんたが私を見てるってだけで気分悪いんだけど。

Shawn  :  You know what, I don't need this either, 'cause I don't need amateur hour.
ショーン  :  お前が何を知ってるってんだ、こっちから願い下げだ、俺はアマチュア・アワーに用はない。

L.A.  :  Yeah, see you later.
L.A.  :  はいはい、また今度な。

Shawn  :  Yeah, you see, L.A.?
ショーン  :  ああ、あんた、L.A. か?

               I'm a better writer than you.
       俺はあんたよりもいい作詞するぜ。

Britney  :  Is he serious? Is he serious?
ブリトニー  :  あいつ本気なの? 本気なの?

[BGM]   ブリトニー・スピアーズ  「有毒」
Toxic - "In the Zone" Britney Spears

Shawn  :  I have trained way, way too hard for this, just to throw me off that easily.
ショーン  :  俺は練習してきたんだ、このための厳しい練習をね、その俺をあっさり落としやがった。
       I just find it offensive.
              ケンカ腰ってのは解ってたけどさ。

Candy Girl - Shawn Armenta

やあ、ショーン。

楽しかったよ。
国境を越えても同じなんだね。
可笑しかったけれど、驚いた。

あんたは漢だよ、いろんな意味で。

December 15, 2013

嗜煙

なんていうか、そういうのは、教えてくれる大人が必ず一人か二人は身近にいたもんだけどなあ。

例えば、日本酒をジョッキで飲むとか、ビールを猪口で飲むとか、それじゃ美味くないでしょう。
ワインの香りを愉しみたいからって、ワイングラスをバシャバシャ泡立つまで振るのは勿論駄目だよね。
それと同じで、煙草にも喫み方があるんだよ。

難しい拘りではなくて、ごく簡単な基本として二つだけ。

まず、燃焼温度を上げすぎない。
煙を楽しむんだから、煙を出やすくしてやる、つまり、なるべく不完全燃焼の状態を持続させるんだよ。
だから、勢いよくスパスパ吸わないことと、灰をポンポン落とし過ぎないこと。

なるべく完全燃焼しないように、燃えてる部分と空気が触れにくいようにしてやる訳だ。

つぎに、煙には香りが引き立つ適温がある。
大方の煙は吸い口から出てきた直後の温度より、少し下げてやった方が、冷やしてやった方が美味くなる。
銘柄を比べるような時は口に少し水を含んだまま吸って煙の温度を下げてみてごらん、香りの違いがよく解るよ。

燃えてどんどん短くなって煙の温度もどんどん上がる紙巻きに比べて、パイプやキセルの方が美味い訳だ。

そうするとね、縁側で日向ぼっこしながら一服してるお爺ちゃんとかを見てみなよ。
少しづつ、ゆっくり吸って、ゆっくり吐いてるのは、年取ってるからじゃなくて、美味い喫み方を知ってるからだよ。
わざわざ習うようなことではないけれど、周りの大人を見ながら自然に身に付けたんだろうね。

今は、そういう大人が減ったんだろうな。

"Cheech & Chong's Up in Smoke" Lou Adler

マッカーサー・タイプのコーン・パイプが難しいって言われるのは、そういう基本から外れてるからなんだ。

ボウル(葉を詰める火皿)側面の上の方からジャンク(煙の導入管)が出てる。
わざわざ燃焼部分に近い場所から温度の高い煙を導入してることになるでしょう。
相反するけど、それを冷やすためにあんなに長いジャンクが必要になったんじゃないかなあ。

一般的なコーン・パイプは、ポパイが咥えてるでしょう、ボウルの下の方から短めのジャンクを出すタイプね。

それにしても、どういう理由であんなに変な形のコーン・パイプを愛用するようになったんだろうね。
もしかしたらボウルの中の底は浅いのかなとも思ったけど、葉は一杯詰めてたらしいから底は深いみたいだし。
勿論、パイプは材質の香りも含まれるから、どんな葉を詰めても焼きモロコシ風味になっちゃってたと思うんだ。

普通は、敬遠されがちなパイプなんだよね。

General Douglas MacArthur arrival at Atsugi airdrome of Kanagawa prefecture in Japan, 30 August 1945.
Photo : the Army Signal Corps Collection in the U.S. National Archives.

煙草の健康被害とか、幼稚な口唇欲求とか、そういう批判が知りたければ、ネットがいくらでも教えてくれるよ。

November 25, 2013

暗澹

この辺りには、街灯がないエリアがある。

真っ暗な夜道、という言葉のままになる。
何も見えないのだが、慣れや勘、足に伝わる地面の感触などを頼りに歩く。
時折、本当に時折だが、通り過ぎる車のヘッドライトが周りを照らす。

驚いて、立ち止まった。

雑木林を横切るガードレールの角に、男が座っているのだ。
ポケットに両手をつっこみ、パーカーを被った頭を深く垂れて、座っている。
冗談だろ、ヘッドライトで見えたけど、靴はどうした、なんで裸足なんだ。

お互いの距離から考えて、こちらが立ち止まって「しまった」気配は伝わったはずだ。

車が走り去ると、再びお互いが闇に沈んだ。
真っ黒な地面と僅かに星明かりのある夜空を重ねるようにして目を凝らす。
今、こうやって冷静に考えると不気味すぎるにも程があって、やはり男が裸足で座っている。

どうせなら、すっと消えてくれたりした方がまだ納得できた。

Burning Desire - "Paradise" Lana Del Rey

田舎には、人がいないようでいる、という怖さがある。

November 23, 2013

些細

ごく普通の仕事に就いていて、ひとつだけ悲しく感じることがある。

タクシーの運転手や派遣で行った保険業務の時などもそうだった。
書類を書いたり備品を選んだり、ちょっとしたメモや注意書きなんかを作って貼るような時。
美的感覚というものが全く、微塵も、これっぽっちも、求められない。

驚くのは、内部だけではなく外部に対して、つまりお客様の目に入るような物事でも大して変わらないということだ。

別に、手作りの注意書きにデザイナーのようなクオリティを求めている訳ではない。
最低限、伝えたい内容を整理して、項目の優先順位などを決め、それらを解り易く簡潔に表示する。
美的感覚以前の、それくらいの配慮があってもいいのではないか、という疑問を持つこと自体が疑問に思われる。

そんな配慮に1分使うなら、1円でも利益を上げることに使ってくれ、と言われる。

実際、民間の中小企業の経費削減は半端じゃない。
美的感覚などという凡そ曖昧な価値は、真っ先に不必要ということになる。
こちらも割り切っているし、ビール瓶の空き箱に座ってるような身分なので、ずっと黙っていた。

ところが、ある日、ある案内書きを見て、とうとう黙っていられなくなった。

"Intouchables" Olivier Nakache & Éric Toledano

片仮名で、グロサリー。

店によってはグロッサリとかグローサリーなどと書くこともある。
不思議なんだけれど、精肉や青果などは日本語なのに、雑貨部門だけはグロサリーと呼ぶ店が多い。
スーパーマーケット、という小売形態が輸入された古い時代からの名残りらしい。

この「グロサリー」を案内書きで使っても、理解できるお客様はほとんどいないと思う。

自分が知ってるから他人も知ってるはずという感覚は、接客業における最悪の欠礼じゃないですか。
ということは、そもそも接客業に向いてない人材がいて、それが判断できない店だと思われるんじゃないですか。
無論そこまで言わず、解りにくいんじゃないですかね、と控え目に進言したつもりだ。

翌日、グロサリーは大きなバッテンで消され、その脇に雑貨、と太いマジックで書かれていた。

"Fruit Stall" Frans Snyders, Vlaanderen 16th Century (1618-1621)
Hermitage Museum

言わなければよかったと後悔して、本当に悲しくなったよ。

November 21, 2013

場所

年末年始はサービス業の書き入れ時だ。

シフト担当のマネージャーは頭が痛い。
忘年会は12月の初めにさっさと済ませてしまうのだそうだ。
しかしこれだけの社員数がいて、一体どこでどうやるのだろう。

どうやら、ファミレスを借りるらしい。

"Doubt" John Patrick Shanley

あるファミレスの一角を借りる。

全部署のシフトで24時間を8分割して組んでいるから、一同に会するのは絶対無理。
そこで、各々が退勤後にファミレスに顔を出し、好きなものを飲み食いする、ということになった。
一人一枚でチケットを配り、食いっぱぐれがないようにという心温まる配慮で出欠も管理される。

あのう、それって忘年会なんですかね。

"Drive : Original Motion Picture Soundtrack" Cliff Martinez

経営者ってのは、忘年会をやらないと駄目とかいう経済界の不文律でもあるのか。

ファミレスまで、行きは誰かの車に乗せてもらえばいいか。
帰りは、徒歩なら90分くらい、電車でも駅までの行き来や待ち時間などを入れるとやっぱり90分くらいになる。
帰りも車に乗っけてくれる話しは嬉しいけど、つまり誰も飲まない、いや飲めないってことか。

なんだろう、それでも忘年会なんですよね?

"Highlander" Russell Mulcahy

神父さん! 許してくれ、俺は虫ケラなのさ。

November 20, 2013

番茶

既に経営危機らしい、ということだった。

それはそうだろう。
あんな場所によく建てたものだ、と思うもの。
箱物行政も極まれり、だ。

タバコを吸いに外へ出ると、冬に備えた野焼きの匂いがした。

計画立案の当初、いろいろな目論見があったのは理解できる。
だけど、こうやって一服しながらだだっ広い景色を見渡すと、悪いが、やっぱり単にだだっ広いだけ。
ここだって名前は商工会議所だが、要は農家の空いてる納屋だ。

町議会は、かっぽう着のおばちゃんが出してくれた番茶をずずと飲んだら、終わっていた。

One Day - Type with one finger

軒先に干してあるピーナッツは、このままフライパンで炒れば食べれるそうだ。

October 29, 2013

秋霜

夜。

年末調整の封筒を脇に挟む。
静かにドアを閉め、鍵をかける。
門灯に照らされた柿は、かなり赤くなってきた。

もう少しで食べれるかな。

&
"Trouble" Ray LaMontagne

空気は、もう冬の匂いだ。

October 27, 2013

Techno 4

テクノ ( Techno 3 / June 8, 2013 )。

インド北部、ヒマーチャル・プラデーシュ州の州都ダラムシャーラ。

クロード・ラコーム博士は丘へ駆け上がると、通訳に向かって怒鳴った。
それでも、割れんばかりに鳴り響く唱和の中で、博士の声は掻き消されてしまう。
もう一度、通訳はなんとか博士の声を聞き取ると、現地語で「その音色は何処から来たのか」と問いかけた。

集まった数千の民衆は、一斉に天を指した。

人類と宇宙人が初めて意思を交わす際、各地で録音された「五つの音階」(5 notes)を利用することが決定する。
その音源としてアープ社のARP2500が選ばれ、同社から派遣されたのが音響技師のフィル・ドッズだった。
彼はスピルバーグに技術的なアドバイスをしているうちに、そのままキーボード奏者として出演することになった。

バリー少年が「アイスクリーム」と呼んだ眩い未確認飛行物体は、果たして呼応するだろうか。

Steven Spielberg & Phil Dodds aka Philip Van Weems Dodds , ARP 2500 synthesizer
ARP Instruments, Inc. 1976

【 The mid 1970s and early 1980s 】

1970年代の中期頃から、ああ、その当時に聴いた覚えがあるなあっていう曲が一気に増えるんだよね。

電子楽器や電子音楽の音色が、田舎の少年の耳にも入ってくるような時代になった訳です。
もちろん十代になるまでテクノなんていう言葉は知らなかったし、エレクトロという認識はまだ一般的じゃなかった。
ましてやプログレなんて、音楽好きの一部のお兄さんお姉さんしか知らなかったんじゃないかな。

当時は、シンセサイザー(Synthesizer)という言葉で一括りにされていた、というのが素直な印象です。

前回、電子音楽は1970年代の前期頃から「三方分派」していくと書いたんだけど、覚えてないか。
まあ、その中で「そのままの方向」性で進化した分野、つまりクラシック音楽を引き継ぐような要素があったんです。
師匠が認める弟子というか、保守層も受け入れる革新というか、大人に褒められる子供というか。

その頃の日常生活で耳にする電子音楽には、サブカルっぽい雰囲気ってまだ全然なかったんですよ。

むしろメインカルチャーを引き継ぐ王道で、優等生の真面目な音楽、という印象でした。
嘘みたいだけれど、国営放送が流しても恥ずかしくない、電子音楽にはそういう空気があったんです。
特にこの時期は、NHKが番組で使用したことによって知られるようになったシンセサイザー奏者が多いんですね。

もちろん、ごく普通の少年として、シンセサイザーを初めて知ったのは、やっぱりNHKでした。

"Oxygène" Jean Michel Jarre

NHKの番組といっても音楽番組ではなくて、主に科学番組が最初のきっかけでした。

1970年代の後半から1980年代の前半にかけて、NASA/JPLのボイジャーが木星や土星に最接近したんです。
その際のシミュレーションとして、コンピュータ科学者のジム・ブリンが作成したCG映像も同時公開されました。
そういった貴重な映像をNHKが積極的に特集で組んで放送してくれたんですよ。

ほとんどの人にとって、シンセサイザーと同様、本格的なCG映像を初めて見る機会になったと思います。

"Voyager Spacecraft : 35 Years of Flight in the Cosmic Expanse" NASA/JPL
RIA-Novosti Infographics, Russia 2013

なにしろ、タイムボカンのボヤッキーと一緒になって「ポチっとな!」とか叫んでた頃ですから。

ボイジャー1号や2号が、アンテナやセンサーを調整しつつ、姿勢制御のデータに従って正確に飛んでいく。
宇宙空間や惑星群、探査機の複雑な構造、そのどれもが、パースを寸分も狂わせずに滑らかに動く。
もうね、子供心に宇宙旅行を疑似体験しているかのようで、それはそれは食い入るように見た記憶があります。

そういう科学番組のサントラで定番だったのが、フランスのジャン・ミッシェル・ジャール(Jean Michel Jarre)です。

改めて聴くと、国や文化によって物事の捉え方や感じ方が違うのは当然のことなんですよね。
でもね、前述の曲「オキシジェン2」のライブ映像は2011年にモナコ公国で演奏している様子なんです。
これ、厳密にはコンサートではなくて、モナコ大公アルベール2世とシャーリーン公妃の結婚記念式典なんですよ。

ここまで出世したシンセサイザー奏者はいないというか、文化の違いというか、単純にビックリしますね。

"Équinoxe" Jean Michel Jarre

なにしろ、テレビ番組をラジカセで録音して「聴く」ことしか出来ない、ってのが普通でしたから。

小学生の高学年くらいになると、周りの皆がそうだったように、自然にエアチェックするようになる訳です。
エアチェックというのはラジオをカセットテープで云々、面倒なんで、知らない人は調べてください。
それで、いい音が欲しいならFM放送なんだけど、NHK-FMの一局独占という田舎でしたから。

選びようがないので、強制的にNHK-FMを聴くしかない。

中学生になって、やっぱりNHK-FMの深夜番組「クロスオーバー11」で、あれ、これ聴いたことがあるぞ、と。
すると、その曲を聴いた日時をメモして、翌日に本屋か図書館へ行くんです。
そこでラジオ雑誌「FM fan」の番組表を立ち読みで調べて、やっとジャールに辿り着く、という感じでした。

約30年も昔ってのは、そういうペースだったんですよ。

Carl Sagan with a model of the Viking lander, from Ep 5 : Blues for a Red Planet.
NASA/JPL US 1980
お久しぶりです、カール・セーガン博士。

少年時代、あなたに憧れました。
あなたは知性と熱意をもって、国境や文化を越えて、私たちに丁寧に語りかけてくれました。
宇宙のこと、星のこと、そして、人間という知的生命体について。

あなたのような科学者を初めて知って、不登校直前の少年はちょっとだけ勉強に興味を持つことができました。

映像冒頭、あなたの最期を看取ったアニー(アン・ドルーヤン)からの挨拶があって、涙が出ました。
02:00 から始まるオープニングのテーマ曲を聴くと、今でも、夜空を見上げていた少年時代を思い出します。
そして、あなたの画期的な科学番組「コスモス」によって、ギリシャのヴァンゲリス(Vangelis)にも出会えたのです。

本当に、感謝しています。


【 Music Synthesizer 】

厳密には、シンセサイザー・ミュージック(Synthesizer Music)とは言いません。

電子音楽は、シンセサイザーを使っていてもエレクトロニック・ミュージック(Electronic Music)です。
どうしても同義にしたいなら、ミュージック・シンセサイザー(Music Synthesizer)になります。
ただし、当時の国内では誰もが「シンセサイザー音楽」や「シンセ・ミュージック」と呼んでましたよね。

和製の造語でもいいから括らないと困ってしまう、そのくらい流行したんですよ。

いざ流行すると、オリジナル曲の発表を待つだけでは供給が不足してしまう。
すると、既成曲を次から次へ、シンセサイザーでカバーして供給するようになりました。
今では信じられませんが、ガンダムのシンセサイザー組曲までリリースされて、実際に買いましたからね。

しかし、先に書きましたが「王道」で「真面目」すぎたのが国内の「シンセサイザー・ミュージック」でした。

きっちり楽譜を書いて、しっかりピアノを弾ける人が、高価な機材に囲まれて真剣に演奏する。
音楽的にも楽器的にも、敷居が高いという印象があったし、良くも悪くもその印象を売りにした面があったんです。
お小遣いを貯めて、取り敢えずギターを買って、なんてレベルでは到底無理って感じが凄かったですよ。

真似ごとすら難しいとなれば、それは少なからず流行の寿命にも影響を与えたと思います。

"Spiral" Vangelis

そして、もうひとつ。

皆さんは、例えば「宇宙」と聞いた時に、どんな印象を受けるでしょうか。
もちろん、科学的とか、哲学的とか、いろいろあっていいんです。
その中で、神秘的っていう印象も、確かにあると思うんです。

でも、それは、シンセサイザー・ミュージックがやっかいな問題を抱え込む原因にもなりました。

UFOや宇宙人、心霊現象や怪奇現象、マジック等々。
そういう疑似科学やオカルトなどのテレビ番組で乱用される音楽になってしまうんですよ。
これは馬鹿にできない問題で、新興宗教のプロモーションなどで必ずシンセサイザーを使う、みたいな状況になる。

それに何故か、その頃のシンセサイザー奏者というのは、これまた仙人か教祖のような姿格好だったんです。

面白いことに、あれだけ最先端の電子楽器に囲まれながら、科学者のような姿恰好をする人はいなかった。
ブリティッシュ・インベージョンの終焉で行き場を失ったスピリチュアルな要素が逃げ込む場になっちゃったんです。
こういうのは、一般的に、普通の感覚で、田舎の少年から見ても、ダサいってのがあったんですよ。

ナウくない、ってことです。

"Cluster & Eno" Cluster & Brian Eno

流行と模倣の関係はすごく重要なんです。

音楽の素養はないし、楽器も買えないけれど、ファッションだけでも真似したいとかって、重要なんです。
プレスリーと同じリーゼントにするとか、パンクの鋲付き革ジャンを着るとか、そういうのがあるでしょう。
シンセサイザー・ミュージックに影響されても、仙人や教祖みたいな恰好で街を歩こうとは思わなかったもんなあ。

だからなのか、ファッション番組でシンセサイザー・ミュージックを選曲する、なんてことはまず有り得ない。

モテるかモテないか、それだけです。
シンセサイザー・ミュージックはこの点が全く駄目でした。
流行は1970年代の末期から1980年代の前半くらいで、10年なかった、いや、実質5年もなかったかもしれません。

素人ではなく、玄人が模倣も含めて相互に影響しあったのがシンセサイザー・ミュージックなんだと思います。

そこからの脱却に成功した玄人の一人として、イギリスのブライアン・イーノ(Brian Eno)を挙げておきましょう。
クラシック音楽に縛られず、現代音楽に拘り過ぎることもなく、電子楽器をごく自然に受け入れることが出来た人。
シンセサイザー・ミュージックをテレビ東京の「ファッション通信」が喜んで選曲するようなスタイルへ導いた人です。

当時まだ曖昧な概念だった、アンビエント・ミュージック(Ambient Music)の先駆けですね。

Brian Eno is approached by Microsoft corporation to produce
"Windows 95" start-up sound which is 6 seconds length in 1994.

この、ウィンドウズ95の起動音で聴いたことのある人は多いかもしれません。

しかし何といっても、国内で彼の曲を耳にする機会があるとすれば、これが冗談ではなくて、葬儀場なんです。
公私を含めて今迄に何度かお葬式に出席していますが、兎に角よく使われてます。
あるいは、彼の曲の系譜を引き継ぐようなジャンルの音楽、ですね。

本来は、お葬式で流れてる音楽なんて誰も気にしません。

悲しみに暮れているのは勿論だし、あまりにも場違いでないかぎり、意識することはない訳です。
でもそれは、この時期のイーノにとって環境音楽とは何か、という本質に関わる重要なことだったんだと思います。
その場にいる人の感情を余計に刺激することなく、意識と無意識の境界線上にあるような音楽とは。

イーノは「部屋の片隅に置いてある花のような」と、書いてます。

部屋の風景に溶け込んでしまっている一輪の花。
誰も気がつかないけれど、しかし確かに其処に在る花。
そういう音楽があっていい、と。

こういう考え方はクラシック音楽でも、それこそ数百年前から数多の作曲家たちが考えていました。
でも、まだ登場したばかりで自己主張の強い電子楽器の音色で、イーノのように考えた人は少なかった。
電子楽器における環境音楽の思考錯誤は当時のイーノがほとんど済ませちゃってるんですよね。

日頃の生活の中で、お通夜でしか聴く機会がないというのは、あまりにも悲しすぎると思います。

"Apollo: Atmospheres & Soundtracks" Brian Eno

本当に、参りました。

小学校の高学年くらいから、特に中学生ですね、その頃を思い出して参ってしまったんです。
ジャール、ヴァンゲリス、イーノを聴きながら、セーガン博士の本を読んでも難しくて寝入ってしまう。
そういう、鬱屈してて青臭くて、恥ずかしい時期だけれど、思い入れがあったことを再確認しました。

迷ったんですけど、紹介できて良かったと思います。


【 Note 】

20世紀の初頭、ヨーロッパにフューチャリズム(Futurism)という前衛芸術が発生する。

過去の美的感覚を捨て去り、新しい時代、未来へ向けた美的感覚を探求する運動だった。
例えば「機械は人類の到達した究極の美」という思想がファシズムと結びつき、各方面に多大な影響を与えた。
ポルシェの空気力学に基づく流線形のデザインなどは、その代表例だろう。

坂本が1986年に発表したアルバム「未来派野郎」で知り、背伸びしたいお年頃には最適な思想だった。

それは兎も角、イタリアのフューチャリストにルイージ・ルッソロという前衛芸術家がいた。
1913年に論文「騒音(雑音)芸術」を上梓、イントナルモーリ(騒音彫刻楽器)を開発して音の未来を追及した。
翌年に発表した曲「街の目覚め」は、未来の象徴だった自動車のエンジンを始動して始まる朝を表現している。

クラフトワークの「アウトバーン」より60年も早いのだから、細野が限界論を唱えるのも充分に理解できた。

Luigi Russolo and Ugo Piatti with the Intonarumori in Milano 1915

「俺は過去を捨てようとしているのに、過去が俺を捨てようとしないんだ」

スタンリー・スペクターに確かこんな台詞があったと記憶する。
なんでもあり、というが、本当になんでもありという自由はなかなか存在しない。
いろいろな物事に縛られながら、少しずつ、新しい物事が生まれていく。

イギリスのアート・オブ・ノイズ(Art of Noise)は、ルッソロの論文に由来している。

テクノ、あるいは電子音楽。
リアルタイムで聴いていた世代だから、情が入るのは勘弁してほしい。
シンセサイザー・ミュージックには、少年時代の諸々がいっぱい詰まっているのだ。

やっと、これでやっと、1970年代以前から抜け出せたかな、そう思えるようになったのは1980年代の中頃である。

&
"Who's Afraid of the Art of Noise" Art of Noise

現在、電子音楽において権威ある賞、ルイージ・ルッソロ音楽賞は一般にほとんど知られていない。

( Techno 5 : Russia 1-2 / February 20, 2014 )

October 16, 2013

土砂

初めて、土砂崩れというものを見た。

割れて陥没したアスファルト。
雨水に濡れて鮮明になった黄土色は、むしろ真っ赤な色をしている。
レインコートと長靴も役に立たない。

どうなってるんだ、この町は。

【Attention : Explicit Content 】
"Magnolia" Paul Thomas Anderson

どうなってるんだ。

October 9, 2013

六感

昨日、あなたの夢を見ました。

わたしは驚いてしまいました。
平静を装っていましたが、内心は慌てていて、ぎこちなかったと思います。
それでも、素直になっていたつもりです。

会って、話をしたのです。

あなたはごく普通でした。
こちらの一言一言に、笑ったり、つまらなそうにしたり、賛成してくれたり、反対だったり、悪戯っぽくふざけたり。
具体的に何を話したのかは、覚えていません。

目覚めて、あなたが何気ない会話に応じてくれたことをとても嬉しく思いました。

でも、あまりにも鮮明な夢でした。
歯を磨きながら、どうしたのかなと思いました。
顔を洗いながら、少し心配になりました。

あなたを心配できる身ではないけれど、驚くくらい、あなたが鮮明だったのです。

あなたに良いことがあったのなら、本当におめでとう。
あたなに悪いことがあったのなら、大丈夫、その問題はきっと解決します。
あなたに特に何もなかったのなら、あなたに幸運が訪れることを願っています。

着替えて、玄関を出ました。

One Day - Type with one finger

その夜も、濃霧でした。

October 7, 2013

雑談

某月某日。

明後日なのか、数万年後なのか、解らないという話だった。
本当であれば物凄い観測精度になるが、それを数週間後から数ヶ月後だろうと弾き出した天文台がある。
晴れた夜空を見上げれば誰もが目にしている、オリオン座のベテルギウスがついに爆発するらしい。

肉眼で簡単に目視できるので、位置を知らない人は確認しておくといいかもしれない。

映画「マルコヴィッチの穴」が面白いと思った人は観て損はないと思う。
現実の脚本家チャーリー・カウフマンと、架空の双子ドナルド・カウフマンの二役をニコラス・ケイジが演じる。
ペシミスト(悲観主義者)とオプティミスト(楽観主義者)の織り成す劇中劇。

現実と妄想が曖昧になることなんか有り得ねぇよ、という人は、そもそも映画鑑賞に向いていない。

"Adaptation" Spike Jonze

某月某日。

喫煙所にて。
だって男ってさ、調子のいいことしか言わないじゃん。
ご、ごもっとも。

男を代表して謝るよ。

誰をリストラするか、こうなったら平等にクジ引きで決めようじゃないか。
そう提案した自分自身がクジを引き当ててしまい、正直者にも程があると呆れられつつ本当に退職してしまう。
アリアンヌ・アスカリッドの演じる奥さんが出来すぎで、涙が出る。

滋味は、日々の暮らしにある。

"Les Neiges du Kilimandjaro" Robert Guédiguian

某月某日。

この町の名産は何ですかと聞かれたら、雑草です、と答える。
じゃ、この町の産業は何ですかと聞かれたら、草刈りです、と答える。
そのくらい、雑草が伸び放題で、何時も何処かで誰かが必ず、役場の腕章を付けて草刈りをしている。

国道沿いくらい除草剤を撒いてもいいじゃんと思うが、それで食ってる人の職を奪う訳にはいかない。

誰かが「戦争は予測できず、もちろん平和は望ましいが、時には争いのある山へ登ることも必要だ」と答えた。
この、「戦争がある」とも「戦争はない」とも解釈できる発言が、米英の政府とマスコミを大混乱に陥れる。
いわゆる裏の裏の裏の (中略) 裏の裏をかこうとしている内に、開戦の理由すら曖昧になっていく。

いわゆる敵の敵の敵の (中略) 敵の敵は、あのさ、今更なんだけど、本当の敵ってどこの国よ。

"In the Loop" Armando Iannucci

某月某日。

今の仕事に就いて、いろいろと見聞きしていて初めて知った。
美味いバジリコを出してくれる店が少なく、どうでもいいペペロンチーノの店ばかりになってしまう理由。
それは、鮮度が命のバジリコは酸化しやすく、作り置きができないので採算に乗せにくいから。

なるほどね。

久々に観て、思った。
心の扉を閉じている人、あるいは心の扉の開き方が解らない人は、これだけは信じて欲しい。
むしろ、その方が普通なんだということを。

匙加減は慣れでなんとかなる。

&
"Mostly Martha" Sandra Nettelbeck

某月某日。

帰ってきて窓を開け、ラジオのスイッチを入れた。
すると、庭に生えてるキンモクセイの香りがふわっと入ってきた。
それなのに、スピーカーから「シクラメンのかほり」が流れてきた。

嘘みたいにタイミングの悪い、本当の話。

イギリス人だと思って馬鹿にしないでくれ、7分間も「死んでた」ってのは一体どういうことなんだ。
麻酔のミスだった、すみませんて、俺だって歯科医だけどこれが謝って済む問題か。
誰に言ってるって、お前に言ってんだよ、お前だ、お前。

冗談じゃないよ。

"Ghost Town" David Koepp

裏をみせ/表をみせ/散る紅葉(もみじ)

この句は、良寛(大愚)が亡くなる直前に詠んだとされている。
表も裏も含めて自分であり、無為に舞う紅葉のように散ることが出来たら幸いだ、といった意味らしい。
仏教には偽善者の対に偽悪者という存在があるらしく、詳しくは忘れてしまった。

要はニュートラルであれ、ということだろう。

October 3, 2013

廃棄

特売であっても、賞味期限の長い商品は利益が出るような価格に設定する。

例えば、漬物やバターなどの賞味期限は、数ヶ月先の日付になっていることが多い。
これを特売で買い溜めされてしまうと、その後しばらくの間は全く売れないという事態になる。
だから、売れる売れないに関係なく、常に最低限の利益は出るような価格を考える。

一方で、賞味期限の短い商品は赤字覚悟の価格でも設定しやすい。

例えば、豆腐や牛乳などの賞味期限は長くてもせいぜい一週間後くらいの日付だろう。
長期間の買い溜めは不可能で、日常的に最低限の数量は売れるから、特売の赤字くらいは何処かで取り戻せる。
特売の豆腐を使った料理を考えて、関連する食材の価格に豆腐の赤字分を上乗せしてもいい。

基本の基本だが、いざ数百品目ある商品でバランスを取れと命じられても、なかなか上手くいかない。

賞味期限の切れた売れ残りは、全て廃棄処分(ロス扱い)になる。
現金にならず、食べる訳にはいかず、再利用もできない、邪魔な食べ物。
これから焼却されるだけの、厄介な食べ物。

毎朝、廃棄された食品を押し潰して呑み込むゴミ収集車(2t)を見るのが、本当に辛い。

Just What I Am - "Indicud" Kid Cudi, US 2013

食べ物は大切に。

October 2, 2013

仮定

少し前屈みになった時、胸ポケットからタバコが落ちた。

もし、フィッツジェラルドが短編小説を書かなかったら。
もし、最初のキャスティング候補のまま、クルーズやトラボルタが主演だったら。
もし、最後の最後にフィンチャーが脚本を買い取らなかったら。

タバコ代の捻出すら汲々としているのに。

もし、台風が来なかったら。
もし、豆腐の売れ行きが悪くなかったら。
もし、発注の数量を調整するためにパソコンの前に座り、エプロンを脱がなかったら。

タバコは丸々一箱、便器の水に浮いている。

もし、コートを取りに行かず、電話に出なかったら。
もし、呼び止めたタクシーを横取りされず、運転手が休憩などしなかったら。
もし、誰かが寝坊せず、ラッピングを忘れず、靴紐が切れたりしなかったら。

そう考えると、あのタバコは、何かの身代わりになってくれたのかもしれない。

The Curious Case of Benjamin Button - "Tales of the Jazz Age" F. Scott Fitzgerald, US 1922

そう考えて、諦めることにした。

September 30, 2013

因縁

今月21日、ケニアでテロリストの襲撃事件(ケニア・ショッピングモール襲撃事件)があった。

場所は、首都ナイロビにある大型商業施設「ウエストゲート・モール」。
正午頃、約10名から15名程とされるテロリストたちが銃や手榴弾で攻撃しながら店内に乱入。
この時点で数十名の民間人が死亡、逃げ遅れた数百人の民間人を人質にして立てこもった。

23日、釈放された人質の一人で4歳の男の子、エリオット・プライア(Elliot Prior)が話題になる。

太股を撃たれた母親を庇い、エリオットはテロリストに向かって「やめろ!お前は悪い奴だ!」と叫んだのだ。
虚を衝かれたか、情が揺らいだか、テロリストは傍の商品棚にあったチョコレートをエリオットに渡すと、こう言った。
「逃げなさい」、そして母親に向かって「許してください、私たちだってモンスターじゃない」と。

母親はエリオットだけでなく、近くにいた子供たちも一緒に連れ出して無事に脱出することができた。


ここまでの内容は、世界中はもちろん、国内のメディアも大きく報じた。

エリオットとテロリストの交わした会話はメディアによってかなり差がある。
テロリストたちは覆面をしており、具体的に誰がエリオットと母親を逃がす判断をしたのかも解っていない。
現場の混乱を考えればそれは仕方のないことで、エリオットが勇敢であることに変わりはない。

しかし、この事件はここから更に興味深い展開となる。

23日の夜、ジョモ・ケニヤッタ大統領の指揮する治安部隊が突入を開始。
24日の夜、大統領がテロリストの制圧と事件の収束を宣言。
60名以上の民間人と数名の治安部隊員が死亡、数百名の負傷者が確認された。

テロリストたちは治安部隊の突入時に数名が射殺され、同時に数名が逮捕されている。
しかし、目撃証言などからテロリストの人数が合わず、混乱に乗じて何名かが逃亡してしまったことが確認された。
26日、ICPOを通じて最重要国際指名手配犯の詳細が公表される。

その一人、サマンサ・ルースウェイト(Samantha Lewthwaite)容疑者。

通称、ホワイト・ウィドー(White Widow)、白い未亡人。
1983年、北アイルランド生まれ、英国陸軍の父親にバッキンガムシャーで育てられたという、生粋の英国人女性。
高校時代にネット上でジャマイカ系英国人のジャーミイン・リンゼイと知り合い、イスラム教に改宗、結婚。

ロンドン大学のオリエンタル・アンド・アフリカ研究学院に通い始めた頃から政治活動にのめり込むようになる。

全米同時多発テロの余波が残る2005年、夫のジャーミインはロンドン同時爆破事件で自爆、死亡。
この事件を幇助したとされるサマンサは3人の我が子を連れて逃亡、指名手配犯となった。
イギリスはサミットや王子の結婚式、オリンピックなどを目前に控えており、国家の威信を掛けてサマンサを追う。

2009年、南アのヨハネスブルクにナタリー・フェイ・ウェッブという偽名で潜伏していることが確認される。
2011年、モンバサの隠れ家でロンドン同時爆破事件と同じ構造の爆発物が発見された。
しかし、サマンサは何れも直前に逃亡している。

情報は錯綜しているが、今回のケニア・ショッピングモール襲撃事件でサマンサが目撃された。

過去の目撃情報では、当たり前だとは思うが、子供と一緒にいるときはごく普通の母親にしか見えないという。
こうなると、エリオットのエピソードにも何かこう、何かがあるような気がしてくる。
盗人にも三分の理、程度で済む話しではないし、既に後には引けないだろう。

絆されたとは思いたくないが、それでも、自首を願う。

"The 7 July 2005 London bombings" often referred to as 7/7.
Photo : Andrew Stuart / ASSOCIATED PRESS, US 2013

1967年、西ドイツのベルリンをイランのパフラビー2世、いわゆるパーレビ国王が訪問する。

当時、世界的に盛んだった学生運動は西ドイツでも全く同じ状況で、この訪問でも抗議活動が行われた。
オペラ劇場の大通りを挟み、前方は賛成派で右派系の若者たち、後方は反対派で左派系の若者たちが占めた。
そして、後の報告書では「直接的な原因は不明」と書かれるであろう些細なきっかけで、大乱闘となった。

一網打尽とばかりに警察が介入、一人の学生が「誰か」に射殺され、西ドイツの学生運動は一気に過激化する。

この実話を取り入れて当時を忠実に再現したのが、映画「Der Baader Meinhof Komplex」だ。
世界配給では「The Baader Meinhof Complex」となり、要はバーダー・マインホフ症候群ということになる。
男女二人の創設者の名から「バーダー・マインホフ・グルッペ(グループ)」と呼ばれた、ドイツ赤軍(RAF)を指す。

理想と現実の乖離、矛盾、分裂は、連合赤軍と寸分も違わず、皮肉にもその点が理解を手助けしてくれている。

"Der Baader Meinhof Komplex" Ulrich Edel, Bs : Stefan Aust
Germany / France / Czech 2008

事実は小説よりも因縁めいており、それを俯瞰できるのは、神か映画の観客のみである。

September 28, 2013

祝電

お久しぶりです。

一昨日に届きました。
渋谷区での写真展、おめでとうございます。
前回の写真展のお知らせから約半年が過ぎた訳ですね。

月日が流れるのは本当に早い。
こちらは相変わらずで、スーパーの店員を続けています。
いろいろ思うところはあるんですが、まあ、あんまり考えても仕方がないです。

田舎なのでこれといった娯楽もありませんが、町ぐるみでケーブルテレビと契約しているのが救いでしょうか。
それから以前に書いた図書館へ通ったりして、息抜きしながら無理せずやってます。
店で働いて、映画を観たり本を読んだりして、寝る。

淡々と繰り返す日々です。

Episode 1 : The Addams Family Goes to School -"The Addams Family : Season 1" Arthur Hiller
ABC-TV, US 1964

そういえば最近、乗り物に乗ってないですね。

電車は、乗る機会がない。
バスは、朝晩だけのローカル運行だし、路線は明後日の方向なので、やっぱり乗る機会がない。
車は、店の軽トラがあるけど、倉庫から正面の出入口へ重量物を移動する時くらいだから、乗るって感じではない。

飛行機や船は、夢のまた夢。

自転車があるじゃないかと思うけれど、町の作りが基本的に車を前提にしてるんですよね。
そうすると、自転車で行けるエリアには、これといって行きたい場所がない。
一番近かった、唯一タバコを置いてるコンビニは、今夏に閉鎖してしまいました。

道端の雑草を眺めつつ、歩くしか、ありません。

Chapter 1 : Welcome Back, Gaijin - "Wolverine : Back in Japan" At : Jason Aaron, Il : Adam Kubert,
MARVEL, US 2012

個人的には、リニア新幹線は全線を地下に施設した方がいいと思います。

富士山を眺めるために地上路線を考えたり、観光拠点で停まったりというのは、愚の骨頂だと思う。
ロマンというのは、当時最先端だった物事が充分な時を経てから、自然に醸し出されるものだと思うんです。
旅情みたいなことは、最初から組み込もうとしない方がいい。

極端かもしれませんが、駅は東京(品川)と大阪の二駅だけでもいいと思う。
ビジネスユースとして割り切り、そこから料金を設定して構わない。
その代わり、絶対的な最速と最短を目指す。

本質が「速さ」にあるなら、そこから一切ブレないようにした方が結果的には成功する気がします。

"Euro Trip" Jeff Schaffer, US 2004

あるアメリカの大学生がメールで親しくなった相手の名前が Mieke だったんです。

英文のやりとりだから「マイク」だと思っていたら、実は「ミーカ」と読むドイツ人の美女だった。
これはもう、実際に会いに行くしかないということで、友人たちと連れ立って彼女の住むベルリンを目指します。
ところが、外国語は苦手だし、旅費をケチりたいし、地理感覚が滅茶苦茶だしで、なかなか辿りつけません。

迷子結構、滑稽上等、意外に面白い映画ですよ。

そうそう、ブラックアウト中にドナ・サマーの「ホット・スタッフ」が流れてますね。
この曲も、例のイタリア人、テクノの巨匠、ジョルジオ・モロダーがプロデュースしてるんです。
テクノを語る上でドイツとイタリアは双璧ですからね、いつか行ってみたい。

まあ、そうやって夢に描いている時が一番幸せなんだろうけどね。

以上、お粗末ではありますが、電車特集をもって祝電とさせて頂きました。

Mi Scusi (失礼)!

August 30, 2013

怪作

あの、すみません。

前回のスカイフォールの歌詞は、勝手に「こうなんじゃないか」と翻訳してみたものです。
物語の流れを踏襲した上で、且つ、独立した楽曲としてなら「この方がいいんじゃないか」と思ったのです。
従って、私的には納得していますが、公的には文責が持てませんので悪しからず。

因みに、日本語特有の「何々よ」や「何々ね」といった、女性が使う終助詞は極力使わないようにしています。

Big Hoops (Bigger The Better) - "The Spirit Indestructible" Nelly Furtado

イギリスの漫画で、1970年代後半に連載がスタートし、現在もファンの多いヒーロー「ジャッジ・ドレッド」。

これが1990年代にスタローン主演で実写映画化された際、頭を抱えました。
売れる時に売るのが商売の鉄則だし、スタローンも当時は脚本を買い漁っていましたから、仕方がないです。
二度と映画化されることはないだろう、という確信だけが残りました。

ところが昨年、再び実写映画化されました。

監督、ごめん知らない。
主演、そうか、スタートレックでマッコイ役だった、あの地味なおじさんか。
悪役、どこかで聞いたような、ああ、ターミネーターのTV版でコナー役の、って、女が敵なのか。

今や女が敵であっても珍しくもなんともないですが、どうも馴染めないというのが個人的な感想です。

しかも、敵とはいえ女が、男に殴られる、男に蹴られる、男に張り倒されるのは、見てて辛い。
ダイ・ハードの4作目にもそれがあって、物凄く嫌な気分になったのを覚えています。
マクレーン刑事は、いくら犯罪者であっても、女の髪を引き千切って殺してしまうような人間性なんでしょうか。

全く期待していなかったジャッジ・ドレッドは、改作の怪作で、快作でした。

舞台は、核戦争後になんとか復興を遂げたものの、貧困層が激増したアメリカ。
人々は超々高層ビルに町単位の人口で住み、スラム化によって犯罪が多発。
結果、超々合理主義により、警察官と裁判官と死刑執行人をひとまとめにした法の番人「ジャッジ」が誕生します。

そして、スローモ(Slo-Mo)という名のドラッグ。
吸引者は、景色が虹色に輝いて見え、ゆっくり動くように感じる世界で、多幸感に浸ります。
この、まるでヘロインなドラッグを仕切っているのが、顔に傷の遺る女ボス、ママ(Ma-Ma)です。

成人指定を受けるだけあって、残酷です。
最近のハリウッドは狂ってるとしか言いようがないくらい、人体が破壊される様子を描写しますね。
しかし、監督がどういうつもりだったのかは知りませんが、悪趣味を越えた映像になってる、と思いました。

ファイナル・ディスティネーション等の、最早ギャグとしか思えない死に様とは一線を画すセンスです。
仮に脚本の執筆段階だったとして、大抵の俳優は、特に女優は、断ると思います。
ママ役のレナ・ヘディは、結果的に株を上げたのではないでしょうか。

突き落とす直前、彼女にスローモを吸引させたのは、ドレッドなりの、微かな情けだったのかもしれません。

Attention : Explicit Content
"Dredd" Pete Travis
海へ、山へ。

夜も繁盛しましたね。
みんな、バーベキューの食材やビールを冷やす氷なんかを大量に買って、出掛けていくんです。
少し羨ましかったけれど、そういうお客さんたちもパタリと来なくなりました。

夏が、終わりますね。

Summit - "Bangarang" Skrillex

夜になると、気の早いコオロギが鳴いています。